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【読書感想】高野秀行『語学の天才まで1億光年』

 
 語学の天才まで1億光年
 高野秀行

 出版社:集英社
 発売日:2022/09/05

語学と冒険をめぐる青春アナザーストーリー

 著者がこれまで巡ってきた数奇な冒険譚とそこにまつわる体当たりの語学学習。これまでの著作を読んだことのある読者には、その破天荒なチャレンジの数々を今更語り直す必要はないだろう。その一つひとつがあまりに突飛なために、もはやどこが一般と著者の閾値なのかが分からない。しかし本書では、その裏に隠された著者のもつ生真面目さが垣間見え、少し落ち着いた感じある。さまざまな経験から得た知見と、20代らしい焦燥感。冒険記だけではなく、これまで青春時代のエッセイなども多数刊行してきた著者だけに、本書はある種ファン必携書ともいえる。

 語学学習ということについては、国際化が叫ばれて久しい現代社会において、多くの人が実践的かつ手軽で短時間に学べるノウハウを模索・渇望していることだろう。ただその実際はそうそう容易いものではないこともまた、多くの人が経験してきていることだと思う。
 著者の場合、自身の冒険という大命題があるとはいえ、実質は必要に迫られたからこその学習だった。必要……いや切羽詰まったからこその必死さといおうか、窮鼠猫を嚙む勢いがある。なんだかんだ25か国以上を学んできたというのだから、それだけでも学ぶところは十分に多い。とはいえ、読者からするとかなり緊迫したように感じられる状況下も著者持ち前の緩い感じで乗り越えているのだから、語学以前に持ち前の気質も手伝っているのかもしれない。ある意味できわめて冷静な視点の中の持ち主であることが容易に察せられるだろう。
 言葉といっても、それはそれだけで単独に成立しているものではない。民族、歴史、文化、その複雑な絡まりの中で多種多様な変遷と変化、影響を受けているものだ。そしてすでに確立されえたものというよりも、むしろ現在進行形で成長・変化しつつあるものだ。だからこそ、著者はその世界に飛び込んで体当たりで学んでくることができたともいえる。そこから浮かび上がってくる答えのひとつは「共感する心」だ。その実際は本書を読んで実感してもらいたい。

 私自身、専門領域の兼ね合いで今でも十数か国語を扱うが、そのほぼ全てが文語である。日本ではその境目があいまいだが、実際に文語と口語が整然と区別されている言語も多い(その言語の話者以外からするとどの言語でもその別は分かりにくいのかもしれないけれど)。自分自身も必要に迫られてという部分も大きいけれど、今から思えば口語としてさまざまな言語を学んでおいたら面白かっただろうなと思うことがときどきある。母国語でもそうだが、異言語・異文化のひとと会話で盛り上がるというのはやはり楽しいものだ。
 
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