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【読書感想】小林麻衣子『西村賢太殺人事件』

 
 西村賢太殺人事件
 小林麻衣子
 出版社:飛鳥新社
 発売日:2025/10/23

人生に対する責任と亡失のエモーション

 本書をどう評価してよいものか、悩む。
 素直に感じたことを吐露するならば、「破滅型」私小説家の名に相応の回想録だと思う。著者は西村賢太氏の元恋人であり、ながらく東京・岡山間で半同棲していた身の上である。
 本書は発売以来、賛否両論の激しい耳目を集めている。
 西村氏の晩年には破局を迎えていたとはいえ、付かず離れずの関係が続き、著者の身の回りで起こる不可解な出来事が相俟う最中に衝撃的な死別となる。その渦中は最終章で弁才無礙に語られているが、件の最終章こそ本書の肝であり賛否両論の火種でもある。
 冒頭より語られるエピソードは、中年カップルにありがちなそれと西村賢太だからこそのそれが随所に垣間見られ、氏の暴力性の一端さえほのぼのとした回想として感じられる。だが最終章に至って、著者の身の回りに不可解な出来事が立て続けにおこる。著者の妄執や妄想ともとれる数々のハプニングだが、その真偽は別として、西村氏はその渦中で鬼籍についた。
 ネットの評価などを見れば、「売名行為」だ「統合失調の気が」などといったかなり際どい言葉が並ぶ。現に著者も文中で、自身を「キ印」や「あたおか」などと表現しているが、それもまたさもありなんと言わざるを得ない文章だ。その一方で、noteなどにはこの最終章に関するネットの評価への反論も展開している。
 この最終章から敷衍するならば、本書全体が著者による創作物ともとれるし、はたまた著者が精神的に追いつめられた事実ともとれる。その真相如何をここで論じるつもりはないが、ただひとつ思うのは、自身が敬愛する人を失ったことで、著者は計り知れないほどの絶望感と喪失感に苛まれただろうということだ。そこに愛の深さと傷の深さの永遠に相容れない狭間で引き裂かれたであろう著者の心の裡を察するしかない。
 本書が事実であろうと創作であろうと、生涯を通じ藤澤清造に私淑し「私小説家」として生き抜いた稀代の文豪の生き様は、現代社会においてどこか胸のすく部分がある。

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