【読書感想】ブコウスキー『郵便局』

 
 郵便局
 C・ブコウスキー / 都甲幸治 訳

 出版社:光文社(光文社古典新訳文庫)
 発売日:2022/12/13

ゆるく長く生きていこうぜ

 90年代、日本でもカルト的人気を博したアメリカ人作家・ブコウスキーの実質的デビュー長編。これまでもさまざまな翻訳者・出版社から刊行されてきた本作の新訳版。しかしもはやこの作品も”古典”と称されるシリーズに部類されるようになったのかと、ふと感慨深いものを覚える。
 この作品の主人公もブコウスキー作品頻出のチコスキ―その人である。作者をモデルにしたような、それでいて作者はそれを否定する人物である。作者の一連の作品同様、この作品の世界もまた退廃的だ。いや、社会全体の一部に生きる、退廃的人生のひとつといった方がよいだろうか? 酒、セックス、享楽……。快楽主義の象徴ともいうべきそれらの単語には、卑猥な言葉があまりにも露骨に修辞されている。飲みたい、ヤリたい、楽したい……いわゆる「ダメ人間」を絵で描いたような生活。だがどこか魅力的なまでに憎めない。破天荒も一周まわるとマットウになるとでもいうべきだろうか? あるいはどこからどう見ても「クズ」そのものなのに、律儀で情深い性格からなのだろうか? 作者本人は否定していても、そこには作者の陰を求めざるを得なくなる。すなわち、作家・ブコウスキーが誕生する背景にあった思念と蓄積が、この作品には盛り込まれている。そしてその姿は、社会的な潮流に翻弄されながら、それでも精神的な自由を謳歌しようというある種の反社会的生活感の反映ともいえる。
 今回の新訳もまた気軽な文体でとても読みやすい。現代的に見ればすでに旧時代的な社会背景。アナログでどことなく不便な世の中だが、それでも伸び伸びとした生活感がにじみ出ている秀逸な訳出だと思う。
 日本戦後のいわゆる無頼派とは一線を画す退廃的精神。今の世の中では忘れ去られた精神的余裕を思い起こさせてくれる。

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