叙述トリック短編集
似鳥鶏 著 / 石黒正教 イラスト
出版社:講談社(講談社タイガ ニB 3)
発売日:2021/04/15
読むダマし絵
人気ミステリー作家による読者への挑戦状のような短編集。いや、「まえがき」の時点から本編中に叙述トリックが散りばめられていることが予告されている。加えてそのヒントや読み解き方まで示されているので、まるきり「挑戦状」といって過言ではない。またそれは「まえがき」にとどまらず、「あとがき」はおろか果ては表紙イラストにまで仕組まれており、本書すべてに作者の遊び心が溢れている。
そんな件の叙述トリックだが、作者のこれまでの作品やミステリーを読みなれた人にとってはオーソドックスなそれの詰め合わせという感が否めない。各短編それぞれ持ち味は違うものの、中には蛇足的な文章が多く冗長な感じを受けるものも多い。総じて意外性も少なく、そのトリックというのが分かっても、どちらかといえば「納得できた」という印象の方が強い。読む側の感じ方にもよるかもしれないが、個人的には「叙述ミステリ」と称した方がしっくりくるのではないかと感じた。
ただ、全編を通して大きく太い軸が横たわっているので、どれから読み進めてもあるいは繰り返し読み返してもあらたな気付きが得られる作品であることは特筆すべきことだろう。