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【読書感想】松下隼士『オーロラの下、北極で働く』

 
 オーロラの下、北極で働く
 松下隼士
 出版社:雷鳥社
 発売日:2025/03/01

極地で出会った「生きる」ことの輝き

 ノルウェー領スヴァールバル諸島にある世界最北の町・ロングイェールビン。そこから更に100kmほど北上したところにあるニーオルスンは、民間人が定住する場所としては世界最北に位置する町だが、その実際は世界中の極地研究者が集うサイエンスタウンである。
 日本の国立極地研究所もここに基地を設けており、本書は観測のほかさまざまな業務を行う「観測技術者」として長期滞在した著者の当時の日記をもとに綴られた滞在記だ。
 世界中から集まった研究者らと寝食を共にしながら研究と雑務に明け暮れる日々は、普段日本に暮らす我々の生活となんら変わりのない淡々とした日常にも思える。しかし極地という極限の環境下であることを彷彿させる出来事もまた日常茶飯事だ。市街地を離れる際のライフル携行義務、建物は施錠不可、化石燃料車の乗り入れ規制、Wi-Fiの使用禁止……街中をトナカイが闊歩し頭上には一日中オーロラが煌いている。まさしく想像を絶するような非現実的な世界が広がっている。
 更には記憶に新しいコロナ禍もまたこの極地を襲った。その時の心理的葛藤の描写を読むにつけて、極地における人間関係の深さと力強い仲間意識を感じざるを得ない。
 
 個人的に「極地」という地理的環境に漠然とした憧れがある。以前紹介した角幡唯介『極夜行』でもそうだったが、本書のような旅行記・滞在記を読むたびに人生一度は訪れてみたいものだと常々思っている。しかし日々の野暮用に追われ、旅行系Youtuberの動画でその欲求を満たすしかない自分を再発見してしまい、少々情けなくない気持ちになってしまう。いわんや本書読了後のそれと言えば……。

【関連動画】国立極地研究所50周年 特別公開LIVE「極地からの研究X」(1:12:00あたりから)

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