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【読書感想】枡野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』

2024年02月17日


 毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集
 枡野浩一
 出版社:左右社
 発売日:2022/09/29

 不世出の現代歌人、その半生

 令和の短歌ブームの火付け役である作者の全短歌集。
 ベストセラーとなった俵万智『サラダ記念日』を筆頭に、現代短歌はもはや日本文学の一大ジャンルといっても過言ではないが、その現代歌壇にあって穂村弘氏などからは「歌壇に完全に背を向けて存在感を維持できた初めての歌人」と称されるなど、作者はある種異端的な歌人である。
 そんな作者の詠歌は実にシンプルで、これまで人生の中で直面した経験や感情にクリアな言葉とリズムを与えている。
 決して華美に言葉を装飾せず、感じたままにあるがままに言葉を切り取り形として浮かび上がらせ、それをどこの誰とも分からない読者に投げかけている。だからこそそこで紡がれた歌は卑近であり、読む者にとって共感を生みやすく深く心に迫ってくる感じを与えるのだろう。
 時にそれは感情の吐露であり、時に箴言であり、時に人生の告白である。それをキャッチコピーかのようなストレートな言葉が、等身大のまま歌人と読者をつなげてくれる。
 特別栞として封入されている俵万智氏との往復書簡内で、作者の短歌を「すでに読者のものという顔つき」と評価しているのはまさしくそうした点にあるのだろう。
 また短歌というものに対して使命感のような気負いを感じさせない態度にも、どこか言葉への絶大な信頼感が垣間見える。それは本書のつくりにも見て取れて、1ページに一首、つまり三十一文字だけが記されている。あとは縹緲とした白い紙面が広がっているばかり。一見とても贅沢な造りのような気もするが、その有り余る余白には無限大の感情が読み取れる。
 
 本書でも冒頭近くに掲載されている作者の初期の頃の作品だが、
 「もう愛や夢を茶化して笑うほど弱くはないし子供でもない」
 という一首を、発表当時に読んだ記憶がある。
 今自分がアラフォーになって読み直してみて、あまりにも身につまされるものを感じたことは白状しておこう。
 

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