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【読書感想】田坂広志『すべては導かれている 逆境を越え、人生を拓く 五つの覚悟』

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PHP研究所
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 すべては導かれている 逆境を越え、人生を拓く 五つの覚悟
 田坂広志
 出版社:PHP研究所(PHP文庫)
 発売日:2022/02/02

より良い人生を歩むための方程式

 さまざまなシンクタンクやベンチャー企業育成でその実績を知られる著者の名が、一般人にも広く知られるきっかけとなった本書。その文庫版が出たので再読。
 著者・田坂広志氏は博士号をもつ科学者である。論理思考を極めた科学者が、なぜ一見するとスピリチュアルあるいは精神論とも思えるような本書を書いたのか? その全てのきっかけは1983年の夏の実体験にさかのぼる。その詳細はすでに知っている人も多いだろうし、またここで書いてしまうとネタバレになってしまう可能性もあるので割愛するが、そこで経験した逆境のエピソードが本書の主要テーマを導き出している。そしてそのテーマこそ「人生を切り開く思考のルーティン」に他ならない。
 結論、自身の人生を左右するのはポジティブな心持である。これは本書以外でもさまざまな自己啓発・スピリチュアル系の書籍でも語りつくされていることだ。だが本書が画期的なところは、ポジティブとその反対にあるネガティブを分けているもの、それはなにかという点にまで掘り下げた論が展開されている点にある。その分かれ目こそ「すべては導かれている」という「解釈力」である。
 人生のいかなる場面でも、不運・不幸とも思える出来事は数多く起こる。そして過去への後悔と未来への不安に、人生という貴重な時間と精神的なエネルギーを消耗してしまっている人も数多くいる。だが本書ではそんな出来事一つひとつに「大切な意味」があり、それはどういう意味を持っているのか解釈することの重要性が繰り返し語られている。そして解釈するといっても、単に「すべてに深い意味がある」「すべて導かれている」と思い込むのではなく、自分自身でそうと決め選ぶことが大切だというのである。つまり解釈と一言にいっても、その解釈はまったくもってそのひとそれぞれの自由なのである。そしてその不運・不幸な出来事を自分に精神の成長の糧にすることで、人生は大きくより良い方向へと拓かれていく。
 苦労に苦労を重ねた人だからこその言葉の重みが本書にはある。もちろん人によっては「なんだそんな当たり前のこと……」と感じる人もいるかもしれないが、一度でも自分の人生の在り方考え直し学びを深めたことのある人にとっては、最終的に行き着く結論が本書ではすでに語りつくされている。
 「いまを生き切る」当たり前のことを実践する難しさは、同時にもっとも簡単に人生を好転させるキーワードだ。

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