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【読書感想】小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

 
 検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
 小野寺拓也・田野大輔

 出版社:岩波書店(岩波ブックレット 1080)
 発売日:2023/07/06

ひとつの情報を理解するということ。

 発売当初から岩波ブックレットとしては異例のスピードで版を重ねた本書。内容はというとタイトルのアンチテーゼそのもので、「良いこと」などなにもしていなかったナチスの姿を深堀りするものとなっている。その具体的なものの一つひとつのは、実際に本書を手に取り確認してもらった方が早い。本書の主眼は、どのような事柄に対しても、その背景や文脈を無視して断片的な情報だけを頼りに論を展開することがいかに危険であるかに絞られているからである。正確な知識と研鑽を重ねた真っ当な解釈がどれほど大切なのか、本書を読めばよく分かる。
 「良いこと」という倫理的な視点は、十人十色でそれぞれが抱えているものによって白にも黒にもなる。その点をナチスはいかに足並み揃えて正当化し、民衆へプロパガンダしたか? 考えるだにその手法の巧妙さには舌を巻くが、
同時にその矛先がどこに向かったかと考えれば、歴史を学ぶ意義の大きさは計り知れない。そこにつけての「真っ当な解釈」である。
 歴史は繰り返すという言葉は、もはや言い古されて久しい。だがなお同じ状況を産み出そうとしている社会は存在する。日本もまた例外なく……。
 と、私は普段、本を読んでも感情的になることはあまりない性質なのだが、本書は扱っている内容が歴史的にもセンシティブなものだけに、少し暗澹たる気分になってしまった。昨今の世界情勢を顧みればおのずとその理由も明らかなのだが、なんとも感想を書くだけでも精神をえぐられるような気持ちになってしまった。
 
 
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