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【読書感想】にしおかすみこ『ポンコツ一家』

 
 ポンコツ一家
 にしおかすみこ

 出版社:講談社
 発売日:2023/01/20

ある芸人の面白くて辛い家族の群像

 いわゆる「一発屋芸人」は数多くいても、SM女王の姿でテレビ画面に颯爽と登場し一世を風靡した「にしおかすみこ」という芸人は特異だ。過激な見た目とは裏腹な線の細い声質とにじみ出る真面目さが相俟って、視聴者の記憶に強烈な印象を与えてまたたくまにブレイクした。
 そんなにしおかさんが自身の家族の姿をつづった本書。Web連載に書き下ろしを追加してまとめられたものだ。
 認知症の母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父、そして独身行き遅れの自分。数十年ぶりに実家に戻ってみた光景は、変わり果てた家族の姿である。そこから著者の"ほぼ"孤軍奮闘がはじまる。実際は介護のそれだが、曰く「愚痴」としつつも愛情ある視点で家族の今を描き出している。
 現代社会において、同様の家庭環境は少なくないと思う。実際問題、その状況を考えれば笑うに笑えないシリアスなものだ。ただ芸人の性からか、書き口は笑って楽しく読んでもらいたいという気づかいを感じられる。あるいは著者元来の性格なのかもしれない。冷静に考えればとてつもなく切ない日常だけに、その悲喜こもごもが痛切に感じられる。
 ときどき「普通になる」母からの手紙、姉の歌からの意外な展開、いつも酔っぱらっている父。淡々と言葉を紡いでいるが、読む者の感情を揺さぶってならない。
 
 個人的に著者と面識はないが、私の友人知人らの中には地方営業の舞台などで一緒になったという人が多い。そして全員口をそろえて繊細で気遣いのできる人だと言っていた。それはブレイク時の芸風からも感じられるし、なにより本書を読めばひしひしと伝わってくる。
 どこにでもいそうな家族は、それでもそれぞれの問題を抱えている。あるいはそれこそ人生の本性ともいえる。面白くて辛い、そんな一冊だ。

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