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【読書感想】笠井亮平『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

 
 第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」
 笠井亮平

 出版社:文藝春秋(文春新書1401)
 発売日:2023/03/17
 

我が道をゆくインドの後ろ姿

 
 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以後、世界を取り巻く情勢は大きく変化した。その中、人口では中国を抜き、また近年急速な経済的発展をとげているインドは、混迷極まる政治外交の場でも鍵を握る存在だ。
 本書は、日印関係史の専門家による現代インドの動向をフォローした一冊。外交史を中心に、経済や軍事などさまざまな側面から今のインドの姿を切り取っている。「一体一路」を掲げる中国や「インド太平洋」という概念を提唱する日米豪、更に南アジアを中心とした周辺関係国の動きの中で、インドはどのように反応・対処しているか? 特にロシアによるウクライナ侵攻後、インドがたびたびみせる不可解なスタンスの背景にあるものへの考察が展開されている。
 しかし本書の大半はアジア-西欧間をめぐる各国の思惑と駆け引きの状況説明に割かれ、インドという国が孕むメンタリティの側面への知見は少ない。タイトルにある「思考」そのものではなく、外交関係や地理的条件から独自の道を行くインドの行動原理を探求しているといえる。また各国間の状況も、メディアや関連書籍で報告されている範疇を出ず、刮目するほどの真新しい情報は少ない。
 インドというキーワードを基軸に、昨今の国際情勢を俯瞰した一冊といったところだろうか。さまざまな意図がからみあい、複雑な様相を呈する政治外交の舞台の一幕を把握するのには良書だろう。
 一点、各章末のコラムはなかなか読み応えがあり、そこだけでも十分に楽しめることは付け加えておこう。
 
 
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 実利論 上―古代インドの帝王学 (岩波文庫 青 263-1)

 実利論 下―古代インドの帝王学 (岩波文庫 青 263-2)
 
 

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