サンスクリット文法編1~連声法と絶対語末~

 このブログでは本当はサンスクリットの文献講読みたいなことをやってみたいのですが、そのためにはやっぱりなんだかんだ簡易的にも文法に触れておく必要に駆られたので、入門程度にサンスクリットの文法に関する記事をこれから数回に分けて書いて行こうと思います。もちろん、適宜修整・追記は行う予定です。
 何度もしつこいようですが、語学を自習するにしても、実績のある文法書にあたるのはもちろんですが、なるべくなら信頼できる先達から指導していただくのが最善です。また、サンスクリットに関してここでは、その足がかりという意味で簡易的な説明に留めていますので、しっかりと学びたいという方は文法書及び専門のサイトを閲覧してください。

サンスクリット文法編1~連声法と絶対語末~

     1、連声法って?
     2、母音階次について
     3、外連声
      ・母音の外連声
      ・絶対語末
      ・子音の外連声   
     4、内連声
     まとめ

1、連声法って?

 連声(sandhi)とは連音とも呼ばれ、音韻論上、文字や単語が連続した場合におこる音変化のことをいう。
  cf,日本語だと、反(はんhan)+応(おうou)→反応(はんうhannou)、銀(ぎんgin)+杏(あんan)→銀杏(ぎんんginnan)という具合。
 もともとは発音を円滑にするために起こる現象なので、どんな言語でも同様に起きることなのだが、殊サンスクリット語ではその変化が規則的に起き、また音の変化が発音だけでなく文字としても書き表されるという特徴をもっている。そのためいわゆる「連声を切る」(元の語形に戻す)ことができないと、文法解釈はおろか辞書を引くことさえ出来ない。
 幸いにしてその変化が規則的に起こるので、それを覚えてしまえば特に問題はない。また、文法学習を通し各変化や活用を覚えたり、いくつかの短文を読んでいくうちに自然と身につくモノでもある。
 余談だが、私は某ファミレスc○co’sの名前をみるたびに連声を切りたくなる。そしてヒンディー的に「チョ○ョス」と呼んでしまう癖がある。

 連声法には大きく分けて外連声と内連声の二つがあるが、それぞれ単語同士が作用して起こる連声と単語内部で格変化・活用などの結果起こる連声である。

2、母音階次について

 連声法の具体例に先立って、サンスクリットにおける特徴的な母音の変化の規則を解説する。
 この母音階次とは、文法的な変化や名詞・形容詞・派生語などを形成する際に起こる規則だ。
 基本となるaに対し、基礎母音(Mūla弱音階)を加えたものをグナ(Guṇa標準階)、aに対しGuṇa化した母音を加えたものをヴリッディ(Vṛddhi長音階)と呼ぶ。
 

基礎母音 i,ī u,ū ṛ,ṝ
Guṇa a e o ar al
Vṛddhi ā ai au ār āl

 この規則性はそのまま母音の連声規則にも適応するので自然と覚えられる。

3、外連声

 以下、まず母音と子音の外連声についてまとめてみる。前回記事内デーヴァナーガリー文字一覧表での分類なども要参照のこと。

 

母音の外連声

 1、同類の短母音結合→長母音化
  a,ā+a,ā→ā
  i,ī+i,ī→ī
  u,ū+u,ū→ū
  ṛ+ṛ→ṝ
 2、a,ā+それ以外の短母音→Guṇa化
  a,ā+i,ī→e
  a,ā+u,ū→o
  a,ā+ṛ,ṝ→ar
 3、a,ā+二重母音→Vṛddhi化
  a,ā+e→ai
  a,ā+ai→ai
  a,ā+o→au
  a,ā+au→au

 4、i,u,ṛ,ī,ū,ṝの半母音化
  i,ī+その他の母音→y+その他の母音
  u,ū+その他の母音→v+その他の母音
  ṛ,ṝ+その他の母音→r+その他の母音

 5、e,oの変化
  e,o+a→e’,o’(aの消失 デーヴァナーガリー文字はavagraha化)
  e,o+a以外の母音→a+a以外の母音(母音連続hiatus)

 6、ai,auの変化
  ai+母音→a+母音(hiatus)
  au+母音→āv+母音
 
  ※例外
   ・名詞、動詞の両数(dual)形の語尾ī,ū,e
   ・代名詞amī
   ・間投詞aho,he及び一母音からなる間投詞
   この場合どんな音が続いても変化しない。

 

絶対語末

 絶対語末とは単純に文の最後に置かれるの語の末尾、タイトルなど単独で用いられる語の末尾をさす。
 しかし、ここに置かれる音にも規則性があり、子音についてもその全てが用いられるわけではない。これは子音の連声法にも関わってくる。
  ・ṛ,ṝ,ḷ以外の母音(a,ā,i,ī,u,ū,e,ai,o,au)
  ・c以外の無声無気音(k,ṭ,t,p)
  ・ñ以外の鼻音(ṅ,ṇ,n,m)
  ・ḥ及びl
 これ以外の音が絶対語末にある場合、以下の子音の外連声の規則に従って変化される。
 また、絶対語末に用いられる子音は一つに限られるため、二つ以上の子音がある場合は通常一番最初の子音のみ残る(他は削除)。

 

子音の外連声

 
 ・k,ṭ,pの変化
  1、k,ṭ,p+無声音→無変化
  2、k,ṭ,p+鼻音を除く有声子音,母音→g,ḍ,p+鼻音を除く有声子音,母音
  3、k,ṭ,p+n/m→g,ḍ,p/同系列の鼻音(ṅ,ṇ,m)+n/m

 ・tの変化
  1、t+鼻音を除くca行音→c,j+鼻音を除くca行音
  2、t+鼻音を除くṭa行音→ṭ,ḍ+鼻音を除くṭa行音
  3、t+l→l+l
  4、t+ś→c+ch
  これ以外はk,ṭ,pの変化に準ずる。

 ・鼻音の変化
  1、鼻音の重複
    (短母音)ṅ,ṇ,n+母音→(短母音)ṅṅ,ṇṇ,nn+母音
  2、nの変化
   ・n+j,jh→ñ+j,jh
   ・n+ḍ,ḍh→ṇ+ḍ,ḍh
   ・n+ś→ñ+ś/ch
   ・n+l→lँ+l
   ・n+<c,ch、ṭ,ṭh、t,th>→ṃ+<ś、ṣ、s>+<c,ch、ṭ,ṭh、t,th>
  3、mの変化
   ・m+母音→無変化
   ・m+ś,ṣ,s,h,ṅ,ñ,ṇ,半母音→ṃ+ś,ṣ,s,h,ṅ,ñ,ṇ,半母音(hiatus)
   ・m+ś,ṣ,s,h,ṅ,ñ,ṇ,半母音以外の子音→ṃ/同系列の鼻音(ṅ,ñ,ṇ,n,m)+ś,ṣ,s,h,ṅ,ñ,ṇ,半母音以外の子音
  4、ḥ(Visarga)の変化
   語末のs,rは続く単語の語頭音と連声する際にḥ(Visarga)化したうえで変化する。
   ・ḥ+ka・pa行の無声音(k,kh,p,ph)、歯擦音(ś,ṣ,s)→無変化
    ただしḥがそれぞれの歯擦音(ś,ṣ,s)に同化する場合がある。
   ・ḥ+ca,ṭa,ta行の無声音(c,ch,ṭ,ṭh,t,th)→歯擦音(ś,ṣ,s)+ca,ṭa,ta行の無声音(c,ch,ṭ,ṭh,t,th)

   ・(a,ā以外の母音)ḥ+rを除く有声音→(a,ā以外の母音)r+rを除く有声音
    (a,ā以外の母音)ḥ+r→(a,ā以外の母音のうち短母音は延長)+r

   ・aḥ+半母音を含む有声子音→o+有声子音(hiatus)
   ・aḥ+a→o’
   ・aḥ+a以外の母音→a+a以外の母音(hiatus)

   その他、間投詞bhoḥ,bhagoḥ,aghoḥ、代名詞saḥ,eṣaḥなど個別の変化もある。

4、内連声

 内連声は語幹構成はじめ名詞や動詞の格変化に際する語根と接尾辞といった語尾との間での音変化だ。基本的に外連声の規則に準ずるが、内連声ではそれと異なる場合がある。

 

母音の内連声

  ・(語根に属する場合、または二個の子音の後)i,īまたはu,ū+母音→iyまたはuv+母音
  ・二重母音(e,ai,o,au)+母音,y→ay,āy,av,āv+母音,y
  ・ir,iv,ur+子音→īr,īv,ūr+子音
  ・語根末尾のṛ→yの前ではri,二個以上の子音の後ではar(ただし無変化の場合もある)
  ・語根末尾のṝ→通常母音の前ではir、子音の前ではīr。pa行音に続いている場合、母音の前ではur、子音の前ではūr。

 

子音の内連声

  ・母音、半母音、鼻音で始まる接尾辞と語尾の前→無変化
  ・その他の子音の前→外連声の規則に準ずる

  ・有声帯気音+t,th→有声帯気音+dh
  ・h+t,th,dh→ḍh(hの前の母音がṛ以外の短母音の場合は長母音化)
  ・dで始まる語根につづくh+t,th,dh→gdh
  ・ṭa行音+ta行音→ṭa行音+ṭa行音
  ・j+t→kt/ṣṭ
  ・ś+t→ṣṭ
  ・nの反舌音化(n→ṇ)
   <ṛ,ṝ,r,ṣ>+n+<母音,n,m,y,v>→<ṛ,ṝ,r,ṣ>+ṇ+<母音,n,m,y,v>
   なお、<ṛ,ṝ,r,ṣ>とnの間に介在できる音は母音,ka行音,pa行音,y,v,h,ṃに限られる(数に限度はない)。
  ・sの反舌音化(s→ṣ)
   <k,r,l,a,ā>+s+<ṛ以外の母音,t,th,n,m,y,v>→<k,r,l,a,ā>+ṣ+<ṛ以外の母音,t,th,n,m,y,v>
   なお、<k,r,l,a,ā>とsの間に介在できる音はḥとṃのみ。
  ・rは子音で始まる語尾の前では無変化。
  ・k,c,śc,ch,j,jj,ś,ṣ,kṣ,h+s→kṣ
  ・語根のn,mは子音で始まる接尾辞の前ではしばしば消滅する。
  ・c,j+n→cñ,jñ

まとめ

 以上、サンスクリット語における連声法の解説でした。
 実際これ以外にも例外的な規則も多くありますが、それらは規則の具体例と併せて文法書などを参照してください。


 これを書きながら改めて思ったのですが、なんだかんだで規則が多い。全部覚えられるなら覚えておいて損はありませんが、実際にはかなり難しいものがあります。しかしデーヴァナーガリー文字一覧表での分類などと照らし合わせて考えていくと、それぞれ法則性をもって用いられていることが分かります。また冒頭の方でも書きましたが、各変化や動詞の活用を覚えたり、語彙量が増えたり、いくつかの短文を読んでいくうちに自然と身につくモノです。また、規則自体を正確に覚えていなくても、文章中でなんとなく「ここで連声切れるな」と分かるようになってきます。
 まずは文法の基礎中の基礎となる部分なので、焦らずじっくりと取り組むべき部分です。

 最後にですが実際どんな感じの文章をどんな感じで「連声を切る」のか、例文を挙げてみます。
 これは古代インドの長編叙事詩『マハーバーラタ』中の一説である『ナラ王物語』の冒頭部分です。
  
  マハーバーラタ ナラ王物語―ダマヤンティー姫の数奇な生涯

 

 ↓ ローマナイズ

 āsīdrājā nalo nāma vīrasenasuto balī।
 upapanno guṇairiṣṭai rūpavānaśvakovidaḥ॥1॥

 ↓ 連声解除

 āsīt_rājā nalas nāma vīrasena-sutas balī।
 upapannas guṇais_iṣṭais rūpavān_aśva-kovidas॥1॥

 という感じになります。

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