学術

サンスクリット文法編5~活用Ⅱ アオリスト・完了・未来・受動態~

  

サンスクリット文法編~活用 目次~

    活用Ⅰ 動詞・現在組織
     総説
     現在組織
      ・1、第1種活用
      ・2、第2種活用

    活用Ⅱ アオリスト・完了・未来・受動態
     アオリスト組織
      ・各アオリスト
      ・指令法、祈願法

     完了組織
      ・重複完了
      ・複合完了

     未来組織
      ・単純未来
      ・複合未来
      ・条件法

     受動態

    活用Ⅲ 第2次活用・準動詞
     第2次活用
      ・使役活用
      ・意欲活用
      ・強意活用
      ・名詞起源動詞活用
     準動詞
      ・現在・未来・完了・過去分詞
      ・未来受動分詞(動詞的形容詞)
      ・不定詞
      ・絶対分詞




アオリスト組織

 アオリスト(Aor)は過去の行為・動作をあらわす際に用いられる。
 ヴェーダ時代にはアオリストと過去・完了の区別が厳密に分けられたといわれているが、一般的には区別されない。
 またこれには直説法アオリストと祈願法(Bened)が含まれるが、指令法(Inj:injunctive)を除いてほとんど直説法の形をとる。

 アオリストには以下、語幹の形成方法により7種がある。
 また活用はいずれもオーグメントa+語幹+第二次語尾の形をとる。

・語根アオリスト
 語幹=語根
 

sg du pl
-am -va -ma
-s -tam -ta
-t -tām -ur

 
 
 
 
・aアオリスト
 語幹=語根+-a
 

sg du pl
P -m -va -ma
-s -tam -ta
-t -tām -an
A -i -vahi -mahi
-thās -ethām -dhvam
-ta -etām -anta

 
 
 
・重複アオリスト
 語幹=語根の重複+-a
 活用は第1類動詞の直説法過去(impf)の形をとる。
 この語幹形成の形に従う語根は非常に少なく\(\sqrt{śri-}\)、\(\sqrt{dru-}\)などに限られる。
 むしろこの形は第10類動詞の使役活用(Caus)や接辞-ayaを伴う名詞起源動詞のアオリストを作るために用いられる。
 
 
 
・sアオリスト
 語幹=語根+-s(-ṣ)
 語根末の母音および語根末尾から2番目の母音は、原則PではVṛddhi、AでGuṇaとなる。
 また語根末尾の子音と連声を起こす。
 

sg du pl
P -sam -sva -sma
-sīs -stam -sta
-sīt -stām -sur
A -si -svahi -smahi
-sthās -sāthām -dhvam
-sta -sātām -sata

 
 
 
・iṣアオリスト
 語根=語根+-iṣ
 

sg du pl
P -iṣam -iṣva -iṣma
-īs -iṣṭam -iṣṭa
-īt -iṣṭām -iṣur
A -iṣi -iṣvahi -iṣmahi
-iṣṭhās -iṣāthām -idhvam
-iṣṭa -iṣātām -iṣata

 
 
 
・siṣアオリスト
 語幹=語根+-siṣ
 語根の母音は基本変化しないが末尾のīおよび二重母音はāとなる。
 Pにおいてのみ活用される。
 

sg du pl
P -siṣam -siṣva -siṣma
-sīs -siṣṭam -siṣṭa
-sīt -siṣṭām -siṣur

 
 
 
・saアオリスト
 語幹=語根+-sa
 語根末のś、ṣ、ḥは-saとの連声で-kṣaとなる。
 

sg du pl
P -sam -sāva -sāta
-sas -satam -sata
-sat -satām -san
A -si -sāvahi -sāmahi
-sathās -sāthām -sadhvam
-sata -sātām -santa

 
 
 
◎指令法(Inj:Injuctive)
 ヴェーダ語において用いられた仮定法の用法の一つ。
 古典サンスクリットではオーグメントaを取り去ったアオリストまたは過去(Impf)に不変化辞(ind)māを伴い禁止をあらわす。
 この用法は「mā+命令法」と同様に用いられる。
 
 
 
◎祈願法(Bened:Benedicitive)
 もともとアオリスト組織に属する願望法だったが、古典サンスクリットではすべての語根から直接つくられる。
 語根がいかなるアオリスト形式をとるかに関わらず特徴ある形式をとる。
・parasmaipada
 語幹=語根+-yās
 語根は弱語形を用い第2種活用の願望法語尾を添える。この時、接辞yāと人称語尾の間にsを挿入する。
 

sg du pl
-yāsam -yāsva -yāsma
-yās -yāstam -yāsta
-yāt -yāstām -yāsur

 
 
 
・ātmanepada
 語幹=語根+sī
 第2次活用の願望法語尾を用い、接辞īの前にsを、tまたはthで始まる人称語尾の前にもsを挿入する。
 語幹の母音はGuṇaとなり、seṭ語根では結合母音iを挿入する。
 

sg du pl
-sīya -sīvahi -sīmahi
-sīṣṭhāḥ -sīyāsthām -sīdhvam
-sīṣṭa -sīyāstām -sīran

 
 
 

完了組織

 完了組織には重複完了(単純完了 Pf:Perfect)と複合完了(Periph Pf:Periphrastic Perfect)がある。
 通常第2種活用以外の動詞は重複完了の形式にしたがう。
 重複完了は語根を重複させ、これに完了特有の人称語尾を加えてつくられ、強弱の区別がありほとんどの語根からつくられる。
 複合完了は現在語幹に-āmを加え、さらに\(\sqrt{kṛ-}\)、\(\sqrt{as-}\)、\(\sqrt{bhū-}\)の完了形を助動詞として加えてつくられる。また、第2種活用の使役活用および現在組織の第10類動詞の完了に用いられる。

◎重複完了(単純完了 Pf:Perfect)
  語幹=強:語根の重複(語根部の母音は階次<Guṇa/Vṛddhi>する)
     弱:語根の重複
 

sg du pl
P -a -va -ma
-tha -athur -a
-a -atur -ur
A -e -vahe -mahe
-se -āthem -dhve
-e -āte -re

 この時、結合母音i(iṭ)は以下の規則に従い挿入される。
 a)つぎの8語根には-reを除いてi(iṭ)を挿入しない。
 \(\sqrt{dru-}\)“走る”、\(\sqrt{śru-}\)“聞く”、\(\sqrt{stu-}\)“ほめる”、\(\sqrt{sru-}\)“流れる”、
 \(\sqrt{kṛ-}\)“なす”、\(\sqrt{bhṛ-}\)“運ぶ”、\(\sqrt{vṛ-}\)“選ぶ”、\(\sqrt{sṛ-}\)“流れる”。
 b)-thaの前では任意でi(iṭ)が挿入される場合が多く、ṛで終わる単音節語根には挿入されない。
 c)veṭ語根は子音で始まる語尾の前で任意でiを挿入できる。
 
 
・子音+i、u、ṛ+単子音
 強弱の2語幹を用い、強語幹では母音がGuṇaとなる。
 活用は重複完了人称語尾を加える。
 
・単子音+a+単子音
 強弱2語幹を用い、強語幹で母音は階次する。
 a)語根の頭語と同一の支院で重複する語根の場合、弱語幹はeを含む1音節となる。
 b)異なる子音で重複する語根の場合、弱語幹の語根は母音aを保つ。
 c)弱語幹において語根aが消失する語根がある。
  eg,\(\sqrt{gam-}\)P“行く”>強:jagam-/弱:jagm-
 d)重複に際しSaṃprasāraṇaが起こる語根がある。
  Saṃprasāraṇaとは半母音が母音化(ya、va、ra → i、u、ṛ)すること。
  中間に半母音を持つ語根の場合、ya、va、raはvi、su、jaで重複される。
 e)母音で終わる語根
 ・i、ī、u、ū、ṛ、ṝで終わる語根の場合
 →I,sg,PでGuṇaまたはVṛddhi、Ⅱ,sg,PではGuṇa、Ⅲ,sg,PではVṛddhiとなる。
 ・āおよび二重母音で終わる語根の場合
 →強語幹では語根部の母音変化はない。
  弱語幹またはⅡ,sg,Pでは子音で始まる語尾の前で母音iをもち、母音で始まる語尾の前で語根母音を失う。
 f)母音で始まる語根
 ・aで始まり1新で終わる場合、語根のはじめのaをGuṇa化する。
 ・a+鼻音 or r+子音、ṛ+子音の場合、ānを重複母音として用いる。
 ・i、uで始まり1子音で終わる場合、強語幹ではGuṇa化し、弱語幹ではそのまま結合しī、ūとなる。
 
 
 
◎複合完了(Periph Pf:Periphrastic Perfect)

 以下の形から形成される。

  語根(第1~9類)            \(\sqrt{kṛ}\)(Pf)
               + -ām + \(\sqrt{as}\)(Pf)
  語幹(第10類,第2種活用)        \(\sqrt{bhū}\)(Pf)

 語根末尾の母音、あるいは1子音で終わる語根の短母音はGuṇa化する。
 また第3類動詞は現在語幹同様に語根を重複させる。

 活用は最後に加わるPfの人称・数は主語と一致する。
 \(\sqrt{as-}\)(Pf)、\(\sqrt{bhū-}\)(Pf)はPのみで、\(\sqrt{kṛ-}\)(Pf)はAまたはPで用いられる。
 
 
 

未来組織

 未来組織には単純未来(Fut:Future)と複合未来(Periph fut:Periphrastic Future)および条件法(Cond:Conditional)が含まれる。
 単純未来と複合未来とはおよそ時制が近いか遠いかで区別される。

◎単純未来(FutFuture)

 語幹=語根 (第1~9類)+ -sya(-ṣya)
    現在語幹(第10類)+ -iṣya

 活用は現在第1種活用第1次語尾を用いる。
 
 
◎複合未来(Periph fut:Periphrastic Future)

 語幹=行為者名詞(語根 + -tṛ<-itṛ>)のm,sg,N + \(\sqrt{as}\)(Pres Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ sg,du,pl P,A)
 三人称では\(\sqrt{as}\)が省かれ行為者名詞のNのみ用いられる。
 
 
◎条件法(Cond:Conditional)

 語幹=オーグメントa+未来語幹+第1種活用第2次語尾
 活用は第1類動詞の過去(Impf)と同じ。
 単純未来との関係は、活用上の現在(Pres)と過去(Impf)の関係に対応する。
 
 
 

受動態

 受動態はP・Aとの対立のそとにあって、第2種活用に属し、第1種活用と同一の時制・法について活用される。
 目的語をとる他動詞はすべての人称・数において受動態をとるが、自動詞はⅢ,sgにおいてのみ受動態をとる。

◎現在組織
 語幹=語根 (第1~9類)+ -ya
    現在語幹(第10類)-aya + -ya
    使役活用の語幹-aya + -ya

 語根の母音、半母音および鼻音などには音変化が起こる。
 a)語根末尾のāおよび二重母音は通常īとなる。
 b)語根末尾のā,ai,oが2つ以上の連続する子音に続く場合āとなる。
 c)語根末尾のi,uはī,ūとなり、語根中でv,rが続く場合も同様。
 d)語根末尾のṛは1子音に続く場合はri、2子音以上に続く場合はarとなる。
 e)語根末尾のṝはīrとなる。ただし唇音(pa行音)に続く場合はūrとなる。
 f)語根中の半母音は母音化する(Saṃprasāraṇa)。
 g)語根末尾の子音の前にある鼻音は通常消失する。
 h)語根末のnは任意で省かれ、nの前にあるaはāとなる。

 活用は現在組織の受動態の語幹にAの人称語尾を加える。

◎現在組織以外の受動態
・アオリストの受動態
 Ⅲ,sgの場合:語幹=オーグメントa+語根+人称語尾i  
 a)語根末尾の母音はVṛddhi化する。
 b)語根末尾のāおよび二重母音は人称語尾iの前にyを挿入し-āyiとなる。
 c)語根末尾の1子音の前にある短母音はGuṇa化する。
 Ⅲ,sg以外の場合:
 a)sアオリスト、iṣアオリスト、saアオリストの場合、各アオリストのAの活用を用いる。
 b)語根アオリスト、siṣアオリストの場合、原則Pのみに限られる。
 c)aアオリスト、重複アオリストの場合、
  ・aniṭ語根(結語母音iを挿入しない語根)であればsアオリスト
  ・seṭ語根であればiṣアオリスト
  にしたがってつくられたAの活用形が代用される。
※特別形
 母音で終わる動詞語根\(\sqrt{grah}\)“捉える”、\(\sqrt{dṛś}\)“見る”、\(\sqrt{han}\)“殺す”ではⅢ,sg以外で任意の特別形を用いることができる。
 オーグメントを伴う語根の形はⅢ,sg,Aor,Passの語尾iの前の動詞語根音変化にしたがい、活用はiṣアオリストの形式にしたがう。

・完了の受動態
 独自の語幹形成はなく、活用にも特別なものはない。
 重複完了(Pf)ではAの活用形が代用され、複合完了(Periph Pf)では語幹を形成する助動詞のPfがAのみ用いられる。

・未来の受動態
 独自の語幹形成はなく、活用にも特別なものはなく、それぞれのAの活用形が代用される。
※特別形
 母音で終わる動詞語根\(\sqrt{grah}\)“捉える”、\(\sqrt{dṛś}\)“見る”、\(\sqrt{han}\)“殺す”では任意の特別形を用いることができる。
 語根の形はⅢ,sg,Aor,Passの語尾iの前の動詞語根音変化と同一でこのiは延長されない。
 単純未来ではiṣya-、複合未来ではitā-(+\(\sqrt{as}\)Pres,A)、条件峰ではオーグメントaを伴うiṣya-、祈願法ではiṣī-となる。
 
 
 
≪活用Ⅱ 終わり≫
 
 
 

-学術
-,