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【読書感想】網野義彦『古文書返却の旅 改版 戦後史学史の一齣』

 
 古文書返却の旅 改版 戦後史学史の一齣
 網野義彦
 出版社:中央公論新社(中公新書1503)
 発売日:2026/05/22

戦後史学の一隅

 戦後すぐの時期、中近世以降の漁村に関する古文書を集めた史料館をつくるという一大事業のために、全国から膨大な古文書が集められた。しかしこの計画は早々に頓挫し、「一年」あるいはそれに近い短期間の約束で借用された大量の古文書が返却されないまま段ボールの中に放置された。
 それらが陽の目を見たのは実に30年以上後のことで、本書は著者を含めた当時蒐集に奔走したメンバーのほか、さまざまな関係者の協力のもと借り受けたままになっていた古文書を返却する過程を追った記録である。
 本書の内容自体は回想録のそれだが、いま「記録」と書いたのは、借用当時と返却時の地域環境の変化を「記録」し、返却行脚の道程において著者自身が痛感した自身の無力・無知・ジレンマ・失策の数々を恥じることなく「記録」し、また古文書の返却によって新たな学術研究の口火が切られた瞬間を「記録」している。更には歴史学の泰斗の学問がどのように肉付けされ強固に裏打ちされていったのか、戦後の日本史学の一端をなぞる「記録」ともなっているからだ。
 それと同時に、古文書の持つ重要性・希少性はもちろん、その維持管理の難しさを垣間見るにあまりある内容で、歴史史料を扱う人にとっては必読の一冊といえる。
 歴史を後世に伝える方法はさまざまあるが、文書類はその中でも特に重要なものである。今なお日本全国には膨大な古文書が残されているが、自然災害などでその一端が少しずつ失われている現状には心痛むものがある。本書で訪れている返却先に阪神・気仙沼・能登という地名も並んでいるが、その後のことを思えばなんとも切ない気持ちになる。

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