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【読書感想】安井浩一郎『独占告白 渡辺恒雄 戦後政治はこうして作られた』

 
 独占告白 渡辺恒雄 戦後政治はこうして作られた
 安井浩一郎

 出版社:新潮社
 発売日:2023/01/17

戦後の怪物、その遺言

 戦後日本を牽引してきた一人といっても過言ではない人物。「ナベツネ」という通称は、メディア・政財界・スポーツ界と、日本の表舞台を飾る華々しいジャンルに鳴り響いてきた。特に球界、読売ジャイアンツの会長としての言動は常に世間を騒がせた。2016(平成28)年、最高顧問の地位を退いてからは、一線を画したようにその動向は多く取り沙汰されなくなった。
 本書は、昭和から現在に至るまで、日本の表舞台のその中心にいた人物の視点から語る「戦後日本史」の総括である。実質は政財界のそれだが、その遍歴がいかに右往左往として今に至るのか、まさしく生き証人だからこそ語りえる歴史像がある。また当の本人が新聞記者あがりで、かつ元共産主義者だったという出自にも注目しておくべきだろう。それ故のバイアスがあるにせよ、先の戦争がいかに悲惨なものであったか、それを口伝しようとする姿勢は評価されるべきだ。
 ただ、私のようなアラフォー世代には、「黒幕のフィクサー」という印象がかなり強い人物であることはたしかで、それを裏付けるようなエピソードを期待していた節がある。だが聞き手がN○Kのプロデューサーという点も相俟って、全体的に毒気のない美談に仕立て上げられている感が否めない。
 それはそれとして、現在の国会議員においても戦後生まれがほとんどを占める中、その渦中へ一家言投じることのできる人物による回想と問題意識に学ぶべき点は多い。大物たちの熱量とはこれほどまでに迸るものかと、改めて感じられた。

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