【読書感想】猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』

 
 昭和16年夏の敗戦-新版
 猪瀬直樹

 出版社:中央公論新社(中公文庫)
 発売日:2020/06/24

昭和20年8月15日以来、なにも変わっていない日本人の姿

 
 毎年8月を迎えるころに思い出す一冊。特に今年は2月以降のロシアによるウクライナ侵攻などもあって、きな臭い空気感に包まれる中で終戦の日を迎える。
 本書は今から40年ほど前に書かれたルポだが、刊行以来各所においてことあるごとに取り上げられることが多い。
 太平洋戦争において日本は昭和20年8月15日をもって終戦を迎えた。ではなぜ「昭和16年」の「夏」の「敗戦」なのか?
 
 昭和16年、日米開戦の気運漂う世上、軍官民各組織の中堅エリートが秘密裏に召集された。当時の政府が彼らをして組織させた「総力戦研究所」。
 「総力戦」研究とは名ばかりで、実際は「戦略戦術」「機密保持」「体操」といった講義中心の教育訓練が主だった。
 しかし7月、その先鋭たち各人が扱いうるデータを基に組閣された「青国政府」という”模擬”内閣。
 果たしてそこで何がなされたのか?

 彼らが取り組んだのは日米開戦後のシミュレーションである。そしてそのシミュレーションがなされた「昭和16年」の「夏」に見出された結論こそ、「日本必敗」の結論だった。
 現代よりもはるかに情報量が限られていた当時において、戦略的かつ経済的な視点から論理的思考において来たるべく未来像が導出される姿は圧巻である。
 だがそこで見落としてならないのは、どうして「日本必敗」の結論が出ていながら同年12月に日米開戦の火ぶたが切って落とされたのかだ。
 そこには客観的データに基づく「事実」よりも、その場その時の「空気」を重視する日本人特有の性が隠し切れない形で浮き彫りにされている。
 
 昭和20年の終戦以降、日本国内だけでも敗戦の検証は無数に行われてきた。
 だが本書の内容と近年の日本の政治的社会的趨勢を鑑みても、敗戦から得た教訓が果たして現代において優位な形で生かされているのか、疑問が残る。
 いやむしろ、結論ありきの形だけを取り繕い、周りの空気に流されるままに事が雪だるま式に転がり始める、そんな日本の姿は70余年前のそれと何一つ変わっていないのではないか?

 「戦後復興」から「経済大国」、そして「クールジャパン」と来て、果たしてこの国は何を教訓としてきたのだろうか?
 
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 失敗の本質―日本軍の組織論的研究

 

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