【読書感想】中島義道『晩年のカント』

 
 晩年のカント
 中島義道

 出版社:講談社(講談社現代新書)
 発売日:2021/01/20

 大哲学者が晩年に眺めた哲学の風景とその周辺

 哲学史に燦然と輝く三批判書、そしてその思想を生み出した不世出の大哲学者・カント。
 タイトル通り、本書はカントの晩年に焦点を当て、その仕事と生活、そして老い行く姿を語っている。
 著者はかつてマスコミに”闘う哲学者”と謳われた中島義道氏。実は、カント研究を軸としたドイツ哲学が専門である。

 本書は晩年の資料をもとに、さまざまな推察やエピソードが豊富に交えられている。
 とにかく硬派で堅物なイメージで強調されがちなカントだが、その逸話に触れると、血の通った人間臭い、ユーモアあふれる姿が窺える。
 加えて若きフィヒテとの確執や国家と対峙した筆禍事件など、カントのヒトとナリ以外にも当時の政治情勢や哲学界の流れなども垣間見ることができる。
 殊、哲学者ならではの悩みや自己韜晦、交流や軋轢などの悲喜こもごもには、著者から手厳しい指摘やアイロニーが飛ぶ。また脱線的な著者自身の昔話なども相俟って、”哲学者”の生態がある意味暴露されているようにも見える。
 それは、随所に散りばめられた老境の大哲学者の悲哀に、近しい年齢となった著者がこれまで感じてきた哲学への思いも重ねられているからだろう。本書はそうしたエッセイとも読むことができる。
 
 本書もまた膨大な資料をもとに書かれているが、著者によるカント論はじめ、カント哲学に触れたことのある人にとっては真新しいことはほぼないと思うので、その点は注意が必要だ。
 とはいえ私自身、かつて同著者の『カントの人間学』(講談社現代新書)を読んだ際、その晩年付近やカントの生活面を取り上げた段で無性にワクワクさせられた節がある。だから、その辺りを深堀したいのならば最適な一冊。

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 哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで

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