サンスクリット事始め その3~デーヴァナーガリー文字に触れる~

 今回はサンスクリット語学習の上では欠かせないデーヴァナーガリー文字について少々書いていこうと思います。
 サンスクリット語のテキストは、通常論文や専門書に掲載される際にはローマ字表記(ローマナイズ)されていますが、実際の文献はほぼデーヴァナーガリーで書かれていますし、前回紹介した辞書などを引く際には読めないことにはどうしようもないという事態も生じるので、読めたことにこしたことはありません。

 まずデーヴァナーガリーそのものですが、
 
 こんな文字ですね。ちなみに甚之助(※通常ローマ字表記ではjinnosukeですが、発音的な問題からjiṃnosukeと表記)と書いています。
 お察しの方も多いと思いますが、ザ・インドと言っても過言ではない文字ですね。




 デーヴァナーガリー(devanāgarī)とはサンスクリット語をはじめ、ヒンディー語・ネパール語・マラータ語など北インド周辺の言語で用いられている音素文字で、現在のインドでは憲法で連邦公用語に定められている。
 ブラーフミー文字という紀元前より用いられている文字の系統に属しており(ブラーフミーが記されているもので有名なものだと『アショーカ王碑文』などがある)、7~8c頃より使われ始めたと言われている(諸説あり)。このブラーフミー文字から分派した文字は非常に多く存在しているが、そのなかでもこのデーヴァナーガリーは現在圧倒的に使用範囲が大きいものになっている。

 デーヴァナーガリーという名称の由来は未詳。wikipediaなどには「nāgarī”都市”の文字が神聖化され、deva”神”がついてdevanāgarī”神聖なる都市文字”」と呼ばれるようになったとか、別のところでも「nāgarīはnagara(都市)の派生語nāgaraに由来」といった記述を目にするが、実際のところはこれらも諸説の一つとしておく方が無難に思う。いずれにせよ、”都市”や”都会”を意味するnagara(男性名詞)という言葉が関係していることは間違いない。



・本題

 デーヴァナーガリーが歴史・地域ともに広範囲にわたって使用されてきたことからも分かる通り、諸々の事情によって多かれ少なかれ差異が生じている。現行の出版物においても版元がどこ地域(国)であるかによって違いが生じている。とはいえ形状のわずかな違いであり、基本的な字形は一緒だ。
 デーヴァナーガリーの最大の特徴として挙げられるのは文字上部にほぼ必ず存在する横線(シィローレーカーśirorekhā)だ。これは単語や文を一つにまとめる役割を持っているが、本シリーズで基底としているサンスクリット語なんかでは、文全体をまとめた非常に長い形をとるといった場合もある。デーヴァナーガリーの各文字の筆順は文法書はじめいろいろなところで調べられると思うのでここでは割愛するが、文字・単語・文のいずれにおいてもシィローレーカーは一番最後に書くのが原則だ(……とはいえ結構面倒くさくて、私も学生時代に文献を写文する時はよく最初に書いてたりしたけど)。

 デーヴァナーガリーで用いられる文字には音と音節という二つの性格があるが、通常子音には先天的に母音aが附された形をとっており、子音だけを表す場合にはヴィラーマvirāma(後記)と呼ばれる符号が付け加えられる。
 音の分類に関しても諸説あるが、基本的な考え方として14の母音と33の子音の47字、及び音節末に現れる特別な3つの子音が用いられている。また前述のヴィラーマのように書法上の特殊記号がいくつかあるが、これはサンスクリット語以外の古代ヴェーダ語やヒンディー語・シンド語などの発音用のものがいくつか存在する。

 以下の表はサンスクリット語で用いられるデーヴァナーガリー文字について簡易的にまとめてみたものだ。
 詳しい解説に関しては文法書などに当たってもらいたい。

 以下のWebサイトでは詳細な説明がされている(直下の結合文字についても解説されている)。
デーヴァナーガリーの読み方 / まんどぅーかのサンスクリット・ページ
デーヴァナーガリー文字を覚えよう!

・結合文字について

 デーヴァナーガリーのもう一つの特徴として2つ以上の子音が結びついて合成された形をとる『結合文字』がある。
 これは現在では簡略されつつあるようだが、やっぱり多用されており、なおかつ非常に厄介。
 各子音同士の一部分を単純に結合(左半分+右半分、上半分+下半分など)したものが多いが、時おり元の子音の原型をとどめていないようなとんでもない変化球があったりする。
 しかし上記の通り、子音の一部同士をくっつけた形が基本なので、この結合文字の主だったものを覚えてしまえば各子音の特徴をとらえやすくなるし、単純に字体そのものを覚えるのに非常に役立つことは確かだ。

 ただしこの結合文字はあまりにも数が多くあるため、その主だったものをと出してもとんでもない数になるので、その辺りは関連の文法書や上記のWebサイトなどを参照してほしい。


・まとめ

 以上、簡単ですがデーヴァナーガリーの特徴の主だったところの紹介でした。
 この文字を何語で用いるかによって発声の問題や書法の問題、字形の変化などほんとに事細かく出て来てしまい、それだけで結構な量になってしまう。それに関しては専門の先生方が長年かけて研究・調査しまとめてくれているので、そちらを参照された方が正解だと思うので、本当の入門の入門としてこのようにまとめてみました。

 デーヴァナーガリーに限らず、さまざまな文字にはそれらを用いる文法同様、不規則形や例外はあるにせよ基本的なルールというものが存在する。その特徴をどうとらえるかで学習の深度は違ってくると思う。しかし最初は深く考えずに、自分の名前を書いてみたり、読めなくても書き写してみたりと、その文字その文字の持つ美しさや面白さを自分なりに味わってみるというのも手だ。
 それぞれの文字がどのような過程を経てその形になったのか、どういう人たちが用いてきてその人たちはどのような生活を営んでいるのか、そんなことを想像してみるのもいいかもしれない。
 まずは、自分の手で触れてみることから始めてみてください。

 
 ……って、ここまで書いたら本格的にサンスクリットの文法解説を書いてみたくなりましたが、書くにはまだまだ勉強不足かなw


 
 書いて覚えるヒンディー語の文字―デーヴァナーガリー文字入門


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