サンスクリット文法編~不変化辞・複合語~
不変化辞
不変化辞(ind:Indeclinable)は性・数・格によらず同一語形を保ち、かつ変化もしない。
副詞
通常の副詞以外にも変化することで副詞化するものがある。
例外:asti(Ⅲ.sg.Pres. \(\sqrt{as-}\) )“ある”は冒頭などで虚辞として“さて”“実に”などの意味で用いられる。
◎代名詞の格変化形あるいはその語基からつくられるもの
eg,tat(Ac,sg,n)“そこに”、tasmāt(Ab)“それゆえに”
◎形容詞の副詞化
・n.sg.N.,Ac.の副詞化
eg,satyam“実に”、balavat“強く”
◎副詞的意味合いで用いられる名詞の格変化形
eg,・Ac.→時点、距離や時間の継続
・I.,Ab.→原因・理由
・L.→位置
◎接尾辞を加えるもの
・-tas→広義でAb.相当「基点」の副詞 eg,tataḥ“そこから”
・-tra→L.相当「場所」の副詞 eg,tatra“そこに”
・-thā→「状態」の副詞 eg,tathā“そのように”
・-dā →「時間」の副詞 eg,sarvadā“常に”
・-vat→「類似」の副詞 eg,tadvat“そのように”
・-śas→「分配」の副詞 eg,ekaśaḥ“1つずつ”
前置詞
前置詞(prep:Prepositions)は名詞・代名詞の前あるいは後に置かれ、その格の持つ意味を文中の他の語との関係を示す形で支配する。
また、副詞の中にも前置詞的な機能を持つものがある。
以下では各前置詞のもつ意味の一部を示す。
◎Ac.支配のもの
a)anu“~に沿って”“~のあと”
b)abhi“~の方へ”
c)prati“(広い範囲に対して)の方へ”“~に対して”
d)upa“~のあとに(追随的な意味)”
e)pari“~の方に”
f)ati“~を超えて”
◎Ab.支配のもの
a)a,apa,pari“~を除いて”“~から離れて”
b)ā(必ず前置される)“~まで”“~から”
c)prati“~に代わって”
◎L.支配のもの
a)adhi“支配する”及び被支配の関係
b)upa“~の上に”“過剰に”
●前置詞的副詞
◎Ac.支配のもの
a)antarā,antareṇa“~の間に”
b)samayā,nikaṣā“~の近くに”
c)abhitaḥ,ubhayataḥ“~の両側に”
d)patitaḥ,sarvataḥ,samantataḥ“~を回って”
e)uparyupari,adhyadhi“~のずっと上に”、adhodhaḥ“~のずっと下に”
f)-ena“(方角を伴って)~の方に”
g)vinā“~なしに”、nānā“異なって”、pṛthak“~を離れて”
h)yāvat“~の間”“~まで”
◎Ins.支配のもの
a)saha,samam,sākam,sārdham“~と共に”
b)vinā,nānā,pṛthak“~なしに”
◎Ab.支配のもの
a)purā,prāk“~の前に”、pūrvam“~の前に”
b)param,parataḥ,pareṇa“~の後に”、ūrdhvam,anantaram“~の後に(続いて)”
c)prāk“~の東に”、dakṣiṇā“~の南に”、dūram“~から離れて”、antikam“~の近くに”
d)prabhṛti“~から始めて”“~以来”
e)ṛte“~なしに”、anyatra“~を除いて”
f)arvāk,ūrdhvam“~を超えて”、bahiḥ“~の外に”、anyatra“~とは別の所で”
◎G.支配のもの
a)upari,upariṣṭāt“~の上に”、adhaḥ,adhastāt“~の下に”
b)puraḥ,purataḥ,prastāt“~の前に”、paścāt“~の後に”
c)uttarāt,uttareṇa“~の北に”、purastāt“~の東に”、dakṣinataḥ,dakṣiṇeṇa,dakṣiṇāt“~の南に”
d)dūram“~から離れて”、abhimukham,abhimukhe“~の方へ”
e)samakṣam,sākṣāt“~の面前で”、pratyakṣam“~の見ているところで”、parokṣam“~のいないところで”
f)antaḥ“~の中に”
g)kṛte“~のために”、kāraṇāt“~の理由で”
◎L.支配のもの
antaḥ“~の中で”“~の間で”
このほか、名詞の格変化による前置詞化などがある。
eg,samīpam“~の近くに”、sakāśam“~の目前に”etc……
接続詞
接続詞(conj:Coniuction)は語と語、あるいは文と文など対等な関係にあるものを結びつける等位接続詞と、主文と副文を相関ないし従属的に連結する従位接続詞に分けられる。
●等位接続詞
a)連結……ca“~と”“そして”
api“~もまた”“~さえも”
atha“さて、そこで”(文頭)
“そして”“しかし”(文中)
uta“また”“あるいは”
tathā“同様に”“また”
b)選択……vā“~か、または”
c)反意……tu“しかし”“他方で”
d)理由……hi“何故なら”
tat,tena,tasmāt,tataḥ etc
e)比喩……iva“~のごとく”
●従属接続詞
a)条件……yadi/cet~~tataḥ/tadā“もし~~ならばその時は”
b)比較……yathā~~tathā/evam/ittham/tadvat“~~のように”
c)時間……yadā~~tadā“~するその時”
d)期間……yāvat~~tāvat“~~する間”
e)場所……yatra~~tatra“~~するそのところで”
f)引用……iti“~であると”“以上”
間投詞
間投詞(interj:Interjection)はしばしばV.と共に用いられ、呼掛けや感情をあらわす。
中には意味の持つ語から派生したものもあり、一つの間投詞に複数の意味を示す場合が多く、厳密に分類はできない。
・一般的なもの
a)喜び・悲しみなど……aho,ajaja,hanta,hā
b)怒り……āḥ
c)叱責……dhik
d)呼掛け……he,hai,o,ayi,aye
尊敬を伴う呼掛け……bohḥ,bho bhoḥ
丁寧な呼掛け……ham,haṃ bhoḥ
e)肯定……ām
・意味を持つ語から派生した間投詞
a)歓迎・挨拶……svāgatam“ようこそ”、kuśalam“御機嫌よう”
b)祈願……svasti“幸あれ”
c)悲嘆……kaṣṭam“悲しいかな”
複合語
総説
複合語(Comp:Compounds)は2個あるいは複数個の語幹が結合することによって作られる。
大別して名詞複合語と動詞複合語があるが、特に名詞複合語が頻繁に用いられる。
名詞複合語
◎構造と種類
定動詞をを除くすべての語が構成要素(支文 Pada)として用いられる。
A(前分)+B(後分)を基本形式とし、B(後分)だけが文中で格変化をする。
A(前分)には複数の語が含まれる場合が多く、特殊な複合語の場合を除き原則語幹のまま用いられる(Aluk)。
前分が2語幹を持つ語の場合は弱語幹、3語幹を持つ場合は中語幹が用いられる。
複合語はそれ自体で完結した意味を持つが、時に外部の語と関係を持つことがある。
支分間の連声は通常外連声の規則に従う。
●並列複合語(Dv.)
A+Bにおいて、AとBが同等の位置に立つ複合語。“AおよびB”“AまたはB”
・全体が2個あるいは3個以上かで両数・複数の形をとるものは、Bの性を保つ。
・支分全体を集合的に扱う場合、n.Sg.の格変化をする。ごく稀にBは自身の性を保ちつつSg.の形をとる。
・並列複合語を構成する語のうち、最後の1語だけを残して他は省略される場合がある(Ekaśeṣa)。
eg. brāhmaṇau(=brāhmaṇaś ca brāmaṇī ca)“二人のバラモン”
bhrātarau(=bhrātā-svasārau)“兄弟姉妹”
・支分の順序は一般的には重要な語が先行する。形態上、母音で始まるa-語幹、またi-,u-語幹、音節の少ない語がAとなる。
●限定複合語(Tp.)
AがBを限定する形式のものをさす。狭義にはAとBに格関係が認められるもの(狭義のTp.)だが、他にAとB間に格関係が認められないもの(同格限定複合語 Kdh.)、Aが数詞のもの(Dg.)がある。
・広義のTp.をつくる場合、支分の語がAまたはBの置かれる位置で単独で用いられる場合と違う語形となる場合がある。
≪前分となる場合≫
a)mahat- adj.→mahā“大きい”
b)an・inで終わる名詞は-nが脱落する。
c)go-“牝牛”+母音=gava+母音
d)語根末尾の子音が省かれるものがある。
≪後分となる場合≫
e)若干の女性名詞は任意に中性a-語幹の形をとる。
f)rātri-“夜”f.は数詞や不変化辞などの後にある時はrātra-,aha-などとなる。
g)その他、独自の変化をする語が多数ある。
eg. rājan-“王”m.=rāja-、(数詞or不変化辞後の)aṅguli-“指”f.=aṅgula-
・狭義のTp.では、AがBに対してAc.・Ins.・D.・Ab.・G.・L.の関係によって分けられる。
・同格限定複合語(Kdh.)はAがBを限定するが、格の関係がない。基本的に[修飾語+被修飾語]の形だが、[被修飾語+修飾語]あるいは[修飾語+修飾語]となる場合がある。
一般的には形容詞+名詞という形をとる。
意味上AとBが同格関係にある際、AあるいはBが比喩を示す場合がある。これは文学作品をはじめ叙事詩や仏典などにも多く用いられている。[比較されるもの+比較するもの](名詞)、[比較するもの+共通する特性](形容詞)の二形式に大別される。
・数詞限定複合語(Dg.)は全体を集合的にあらわす場合(集合名詞)と、もともとの意味に派生的な意味が加わる場合がある。
集合名詞は通常n.Sg.の形をとる。
●所有複合語(Bv.)
複合語に所有・所属の意味が加わり、全体が形容詞として他の名詞を修飾する。
基本的に以下の形式をとる。
・A形容詞(数詞を含む)A+B名詞
・A過去受動分詞(P.pt.)+B名詞 ※頻出
・A名詞+B名詞
・A不変化辞
・数詞を支分とする場合
・A・Bともに方角をあらわす形容詞で中間の方角をあらわす場合
●不変化複合語(Abh.)
Aが不変化辞でBが名詞でn.Sg.Ac.の語形をとり、全体で副詞の意味をあらわす。
Bの名詞がaで終わる場合そのままmを加えるが、
・ā-語幹,an-語幹→am
・i-,ī-,in-語幹→i
・u-,ū-語幹→u
などの変化が加わる。
また、Aとなる不変化辞によって様々な意味をあらわす。
その他、上記の形式に属さない不規則な複合語がいくつか存在する。
動詞複合語
約20個の動詞接頭辞といくつかの名詞・副詞が動詞語根ならびに準動詞に前接してつくられ、動詞の持つ意味を強調したり限定したり、場合によってはまったく別の意味を与えたりする。
・接頭辞と語根との連声
a)接頭辞にrが含まれる場合、語根の頭音n→ṇ、ni→ṇiとなる。
b)接頭辞の末尾is,usは、k,pで始まる語根の前でiṣ,uṣとなる。asは無変化。
c)i,uで終わる接頭辞につづく語根頭音s→ṣとなる。
頭音sにmが続くあるいは語根にṛが含まれる場合は無変化。
d)\(\sqrt{kṛ-}\)“なす”は接頭辞sam,upa,pariと結合する際sを挿入する。
ただい、upa,pariと上記の結合した際の意味は“飾る”となる。
e)\(\sqrt{krī-}\)は接頭辞upa,pratiと結合する際sを挿入する。
この場合の意味は“切る、傷つける”となる。
f)接頭辞udに\(\sqrt{sthā-}\)“立つ”,\(\sqrt{stambh-}\)“支える”が結合する際、頭音sは消失する。
g)接頭辞apiに\(\sqrt{nah-}\)“結ぶ”,\(\sqrt{dhā-}\)“置く”が結合する際aが消失しpiとなる。
・一般的な接頭辞
a)ati“~の向こう”
b)adhi“~の上に”
c)anu“~に沿って”
d)antar“中間に”
e)apa“離れて”
f)api“~に近く”
g)abhi“~の方へ”
h)ava“~の下に”
i)ā“~の方に”
j)ud“上方に”
k)upa“~の方に”
l)ni“下に”“中へ”
m)nis“外に”
n)parā“遠くに”
o)pari“~の周りに”“完全に”
p)pra“前に”
q)prati“~に対して”
r)vi“ばらばらに”
s)sam“一緒に”
・副詞+動作をあらわす語根 eg,\(\sqrt{kṛ-}\)“なす”
a)acchā“~の方に”
b)alam“十分に”、sat“よく”、asat“悪く”
c)astam“自分の家に”
d)āvis,prādur“眼前に”“明白に”
e)tiras“横切って”
f)puras“前方に”
g)sākṣāt“明らかに”“直接”、mithyā“不正に”“無益に”
h)urī,urarī(同意・承認の不変化辞)、vaṣaṭ,vauṣaṭ(祭詞)は\(\sqrt{kṛ-}\),\(\sqrt{bhū-}\)の接頭辞に用いられる。
≪不変化辞・複合語 終わり≫