感想・レビュー インド哲学仏教学

【読書感想】ヴィヤーサ著・石原美里訳『邦訳マハーバーラタ 寡妃の巻』

2024年03月25日


 

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 邦訳マハーバーラタ 寡妃の巻
 ヴィヤーサ 著 / 石原美里 訳
 出版社:パブファンセルフ
 発売日:2024/01/29

愛する者を失った悲しみと屈辱

 インドの二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』。そのうち『マハーバーラタ』(以下MBh)の第11巻「Strī-Parvan」の日本語訳注本
 MBhの日本語完訳は未だなされていない。故上村勝彦博士による翻訳は、急逝のため第8巻途中までにとどまっている(山際素男氏訳は完結しているがM.N.Dutt英訳版の重訳である)。しかしMBhの部分部分はさまざまな研究者により個々で翻訳がなされており、本書もそのひとつであり画期的な一冊になっている。
 本書冒頭でMBhのおおまかなあらすじと登場人物の解説がされているが、これがまたかなり平易で分かりやすい。MBh自体が複雑で長大なストーリーを有するものだけに、ここまで至れり尽くせりの解説が附されていることはMBhに触れたことのない読者にとっては実にありがたいことだ。また脚注もかなり精緻で、巻末の参考文献と併せてMBhに興味を持った読者が今後どのような文献に当たればよいか明確な羅針盤となっている。
 訳文自体も丁寧で精巧な翻訳がなされていることが窺える。そこにはこれまでの研究で培われた知識だけではなく、もはや愛情のようなものさえにじみ出ている。なにより、部分訳とはいえこの長大な物語の一片を新たに日本語で読むことができるようになった、この功績は極めて大きい。
 私のような自称「野良研究者」なんて、こんな片隅のブログでインド学や仏教学の入り口あたりをああでもないこうでもないというのが関の山で、本書には感服・敬服の言葉しかない。
 
 上村博士が道半ばで鬼籍につかれ途中訳となっていたMBh日本語完訳について、今こそ諸研究者がその意思を引き継ぎ、まだ埋められていないピースを一つひとつ埋めるがごとく、MBh日本語完訳を完成させてほしいと実は数年来思っている。最近も学会内ではいろいろゴタついた話しがあるのを時おり耳にするが、それはそれということで、先生方よろしくお願いします。
 

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