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【読書感想】新井潤美『〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで』

 
 〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで
 新井潤美

 出版社:講談社(講談社学術文庫)
 発売日:2020/01/14

 英国紳士の本音と建前

 「英国紳士」といえば、日本人の頭の中にはステレオタイプ的な姿があるかもしれない。だがその実際、同じ英国紳士でも上下、その上下の中にもさらに細かい隔たりがある。本書はそんな英国紳士の中でも「中の下」に属する"lower-middle-class"、社会経済の中央の低い部分を占める階級の人々がどのような歴史的背景の中で生まれ、どのような境遇におかれているのかに迫った意欲作。もともと中公新書で出されていた『階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見』を加筆修正したものである。
 その内容だが、タイトルとは一変、先述のとおりロウアーミドルクラスの解説に終始しているので、いわゆる上流階級の貴族たちとの比較、特に言葉遣いや生活習慣の違いなどへの言及は乏しい。英国紳士の"生態"学なので、その辺りへの興味に惹かれ本書をとった場合、肩透かしを食らった感じを受けるだろう。だがイギリスにおいて「階級意識」がどれほど根深いものか、その雰囲気だけでも知りたいのならこれほどの良書は他にないと思う。特に上流階級の美徳という印象が強い礼儀正しさや勤勉さといった態度について、ヴィクトリア女王治世化に上流階級に定着したという話しは興味深い。しかもそれが次第にミドルクラスにも浸透していき、結果的にはミドルクラスの象徴として揶揄の対象となったという流れには驚きを隠せない。
 いずれにしても、英国紳士の何たるかを学ぶというより、中流階級の実態を追った内容となっている。また英文学に当たりたい読者にとっては手元に置いておいて損はない一冊だ。

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