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【読書感想】小泉悠・桒原響子・小宮山功一朗『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』

 
 偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い
 小泉悠・桒原響子・小宮山功一朗

 出版社:ウェッジ
 発売日:2023/01/20

新たな国家間闘争の姿

 「ハイブリッド戦争」という言葉が世界を席巻して久しい。その中で、特に「情報戦争」というキーワードは今や国際社会を左右するまでの重要事項といって過言ではない。正しい情報とはなにか、新たな国家間の争い方が今や日常生活にまでその触手を伸ばしている。
 ロシアによるウクライナ侵攻以降、さまざまな媒体で重要な発言を繰り返している執筆陣が「情報戦争」の今を紐解く本書。特に諸外国と日本の現状を対比させての言及は、国際社会における日本の危うい立ち位置を暗示しているともいえる。というのも、日本を取り巻く情報戦の状況を包括的に解説してくれているので、日本という国が今現在国際的にどのような立ち位置にあるかを明確に把握することができる。
 独自の言語文化に立地的条件、これだけでも海外からの情報攻撃にさらされにくい条件を整えている。だがそれは、情報戦への認識も対応も脆弱で、脅威にさらされる経験値が乏しいことも意味している。殊、日本における一般市民の社会問題への無関心は、何十年も前から指摘されている。更にその点にこそ偽情報(ディスインフォメーション)の効果を高める要因がある。サイバー空間と民主主義との相性の悪さも相俟って、情報の正誤は発信者の目的はもちろんのこと、受け取る側の情報リテラシーにも大きく依存する課題だ。いまや情報をどう発信し、どう受け取り、どう解釈するかは国家の安全保障上の一つの焦点ともなっている。
 ではその対応はどうするべきなのか? ひとえに情報リテラシーを高める以外に他ない。難しいことではあるけれど、情報そのものへの観察力を養うことに尽きるだろう。そのためには、メディアやSNSで怒涛の如くながれてくるすべてを鵜呑みにすることなく、一度立ち止まって冷静かつ論理的に「情報」そのものと対峙するしかない。
 「情報」に対して日頃から能動的に向き合う姿勢……。今この国にあって、どれだけの人がそのことに気づき、認識を新たにしているのだろうか?
 最後に、本書は「情報戦争」という次世代の闘争の在り方を把握する上で重要な一冊だ。だが大分大急ぎで書かれたのか、読んでいても執筆陣の拙速感が否めない。あるいは焦燥感とでもいおうか、結果、本書の刊行が適切な時宜を得ていることは偶然ではないだろう。
 
 
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