【読書感想】『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』

 
 しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~
 富士屋カツヒト・画 左藤真通・原作 清水陽平・監修

 出版社:白泉社(ヤングアニマルコミックス)
 発売日:2022/08/29
 
 しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~ 2
 しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~ 3

 誠実な仕事とはなにか?

 インターネット上の誹謗中傷やデマ。SNS全盛の昨今、現実世界でも無視し難い問題になってきているのは周知のことだろう。
 本作品は、ネット上でのトラブルに強い弁護士と依頼人とが織り成す人間模様を法闘争を舞台に描いている。ネット広告なんかで無料版が出ていたりするので、そこで本作の冒頭なんかを読んだことのある人もいるだろう。私もその口で知ったのだが。。。
 
 さて本作品の主人公である弁護士・保田は、余計なこともお世辞も言わない、必要なことを本音で語る人だ。普段の行動がかなりおちゃらけているので、一見するとテキトーな人間に思えてしまう。
 だが、法律や弁護士の視点からすると、その態度は実に誠実で真っ当なのかもしれない。作品内でも語られているが、法律を用いて争うということは、セラピーでもなく喧嘩でもない。「起こってしまった」損益を理性的解決することに他ならない。そしてそれには膨大な時間と労力とお金と精神的摩耗がついてまわる。つまり、問題の根源を解決しうるものでは決してありえず、かつ関係するすべての人に「しんどい」状況しか産み出さない。だからこそ、そこに感情移入があってはならないというのが主人公のスタンスだ。親身になって助けることは悪いことではない。だがそこに深入りすることで生じるデメリットの深さ……。一見すると冷酷とも思えるかも知れないが、主人公はあえてその現実を突きつける。そう、しょせんは「他人事」だからだ。
 
 なによりこの「他人事」というスタンスは、ある意味でSNSをはじめとしたネット世界に対して必要な立ち居振る舞いを示しているのかもしれない。
 「炎上の渦中にいると自分が世界の中心に思えちゃう」
 「実際は世界のほんの一部で コミュニティがズレたら誰も知らなかったりする」
 炎上も飽きられたらすぐに鎮静化する。そしてそこに油を注いでいた人間はまた新たな炎上問題を貪りに行く。
 読み進めていくと、ネットも「結局狭い世界なんだよな~」とつくづく思えてしまう。だからこそ「他人事」のスタンスは重要なのだ。誰かが問題発言をしても他人事、芸能人の不倫問題にしても他人事。……実際、諸々の炎上案件のどれほどの部分が、自分の人生あるいは生活に影響があるといえるだろうか? ほぼ皆無だ。しかし人々は群がる。その心理的な背景などはまた別の問題であるにしても、結局一つひとつの炎上案件を取り巻く人々の意識は、すべて「自分事」として捉えている節があるのではないか? そう考えれば、「他人事」という意思は、なにも無責任なことではなく、むしろ事象に対して適切な距離感と冷静さを保つことに他ならないだろう。

 自分も日々ネット世界の片隅に身を置いていて感じるが、しょせん「他人事」である。そこに何を感じ何をどうとらえるかは人それぞれだが、結局のところ「他人事」だ。見失いたくない視点でもある。
 各巻末には監修の先生による解説&裏話も掲載されているが、これも必読である。
 
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 シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感

 

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