【読書感想】ドミニック・ボービー『潜水服は蝶の夢を見る』

 
 潜水服は蝶の夢を見る
 ジャン=ドミニック・ボービー 著 / 河野 万里子 訳

 出版社:講談社
 発売日:1998/03/05

 心だけになった人間が見つめた世界

 本書は大反響を呼んだ世界的ベストセラー。映画化もされているのでタイトルだけでも聞いたことがある人も多いだろう。
 世界的ファッション雑誌『ELLE』の元編集長である著者は、脳幹出血という大病の末、ロックドイン・シンドローム(閉じ込め症候群)に陥る。これは俗にいう「植物状態」と異なり、四肢が麻痺しているものの意識が覚醒している状態、つまり、自己と外界を認識できているが身体的自由を失い意思表示の方法が欠如した状態のことを指す。海外の驚くべき事件やニュースを取り上げるバラエティ番組などで、長い昏睡状態から目覚めた人が自身の傍らにいた人々の会話が聞こえていたという話しが時折取り上げられるが、同様の状態である。
 著者の場合、自発的呼吸さえままならない中で左目の瞼のみ奇跡的に動かすことができた。そこで使用頻度の高い順に並び変えられた特殊なアルファベット表を用い、編集者と二人三脚で本書が書き上げられた!
 全く自由の利かなかくなった自身の身体を「潜水服」に、その反面どこにでも自由に行ける心を「蝶」に例え、自分自身の中に閉じ込められた人間がとらえた世界を、詩集のような美しい文章で綴っている。そしてそれはまたウィットとユーモアに富み、悲惨な極まりない現状を読者に感じさせない。それどころか、どこかその状況を楽しんでいるようにさえ感じられる。極限の状況にありながらそれでも光輝くような精神から紡がれた一つひとつの言葉は、稀有な経験者の貴重な証言という以上に、読む人のこころを打つのだろう。
 本書が母国フランスで出版された二日後、著者は感染症の合併症のため突然この世を去った。あまりにも劇的過ぎる人生だ。
  
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