【読書感想】永田守弘『官能小説用語表現辞典』

 
 官能小説用語表現辞典
 永田守弘 編

 出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
 発売日:2006/10/10

「表現」することの奥深さと卓越さとクセの強さ

 以前からレファレンス用に辞書棚に並んでいた本だったが、先日、歌手のあいみょんさんの愛読書であることを知り初めて「読ん」でみた本。
 官能小説研究の第一人者による本書には、600冊を超える作品から抽出された2300語にもおよぶ独特な用語・表現がまとめられている。そしてそれらが女性器・男性器・声・オノマトペそして文庫化の際に追加された絶頂表現に大別されており、特に女性器・男性器に関しては部位ごとに細かくまとめられている。
 官能小説を少しでも読んだことがある人なら知っているだろうが、行為の描写にはあまりにも過剰であまりにも豊穣な表現が費やされている。それはもはや、言葉と数の暴力ともいえるほどに書き連ねられていて、男女の織り成す心理的な機微、あるいは性のもつ多彩な側面を手を変え品を変え表現されている。
 そんな言葉や表現を集めた本書の真骨頂は、「あとがき」にある。
 どうしてこれほどまでに過剰で生々しく更に滑稽ともとれる表現がなされるようになったのか? その背景には、言論統制と創作の長きにわたる格闘がある。戦後、表向き言論統制は解除されたものの、エロティックな表現への規制は実質続き、完全に解放されたのは1980年代になってからだという。それまでは警察も猥褻な創作物に対して目を光らせており、官能小説もまたその対象だった。そこで作家や出版社はその規制の網をかいくぐるため、直接的な表現は避け、それでも読者に淫らなイメージを想起させるように苦心し、結果その表現がより官能的に、より淫らに、そしてより豊潤になっていった。編者が「官能小説はイマジネーションの世界である」と喝破している通り、規制という抑圧の中で性的表現はヴァリエーション豊かに昇華されるに至った。
 この背景は、同時に創作と表現の根幹をも暗示しているようにも思う。限られた中で成熟されるからこそ、創作物はより豊かで奥深いものになっていく。その一端を垣間見た気になってくるのだ。

 冒頭に書いた通り本書を初めて読み物として読んだが、率直に言って下手なラブコメなんかよりエロティックで、また陳腐なコメディなんかよりも余程面白かった。各語に引用文が附されているのがなお憎い。

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官能小説「絶頂」表現用語用例辞典

いろごと辞典

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