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【読書感想】黒川祐次『物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国』

 
 物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国

 黒川祐次
 出版社:中央公論新社(中公新書)
 発売日:2002/08/25

ヨーロッパ最後の大国の矜持と悲哀

 2014年、ウクライナ騒乱に端を発したクリミア危機。ロシアによるクリミア侵攻の結果、その編入が宣言された。
 20世紀初頭より「ヨーロッパの火薬庫」と謳われたバルカン半島。そこにほど近いクリミア半島は、ロシアにとっても重要な拠点である。

 本書は元ウクライナ駐在大使によって記されたウクライナ史。いや、正確を期すならば、「ウクライナ」という土地の歴史を切り口としたウクライナとロシアの歴史と素顔に迫る一冊と言える。
 スキタイ人による支配にはじまりソ連解体に至るまで、その苦難の歴史が綴られている。

 2022年2月、先のクリミア危機が燻り続けた末に勃発したロシアによるウクライナ侵攻は記憶に新しい。今なお(2022年4月時点)いつその終結を見ることか、全く見通せない。
 ただ、今回の騒動が、一国の大統領の暴走あるいは妄信によって実行されたものではないことは、本書を読めば理解できる。
 その背景には歴史的、文化的、そして地政学的なものが複雑に絡み合っている。肥沃な大地がもたらすヨーロッパの穀倉地帯としての役割も重要だ。
 特に驚くのは、ウクライナが重層な歴史を持ちながら20世紀に入るまで独立した国家としての枠組みを構築し得なかったこと、また今までロシアの文学や芸術、技術発展に貢献してきた人々のルーツが、ウクライナのそれに求められること、その二点だ。果たしてウクライナとロシアは同じ民族なのか? 同じ国といえるのだろうか?
 今から20年前に刊行された本書だが、その歴史と観点を俯瞰するに唯一無二の良書といえるだろう。

 私も2014年のクリミア侵攻勃発時、その周辺の歴史を学ぶために本書を通読したが、今回のウクライナ侵攻を契機に再び引っ張り出してきて再読した。
 ウクライナ周辺の通史を把握するにはやはり最適だと言わざるを得なく、今回の侵攻勃発により多くの読者に注目され、一時は中古の新書版にとんでもない高値がついていたようだ。現在は増版されて落ち着いているが、世間の人のそうした動向も相俟って一人でも多くの人に手に取ってもらいたい。
 そして一日も早く、今回の悲劇が終息することを願って止まない。
 
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