哲学で抵抗する
高桑和巳
出版社:集英社(集英社新書)
発売日:2022/01/17
清く正しく実践する哲学的態度
本書は哲学の入門書でありながら、巷に跋扈する数多の哲学入門書と比して極めて異色である。それは本書が「哲学する」ことの入門書だからだ。
そもそも哲学とは、その本道たる哲学史の勉強に留まらない。つまり知識を身に付けるだけのものではないのだ。
本書では、哲学を「世界認識を変える知的抵抗」と定義し、それをもとにマイノリティがマジョリティに対する抵抗の中で「哲学」が立ち上がっいく様子が論じられている。それはまさしく「哲学する」姿そのもので、王道であり醍醐味だ。
冒頭、著者は哲学を「哲学史と同じではない」「高慢な理論を論ずる営みではない」「悩みでもその解決でもない」と語っている。これは一度でも「哲学する」ことに触れた経験のある者にとっては至極当然のことだが、世間一般ではまず誤解されているだろう。
それ故、本書は異色の哲学入門書であり、哲学の王道を行くものを秘めている。著者の筆致もそれに呼応して、縦横無尽に躍動しあるいは詩的に昇華すると思われるほどの気魄が感じられる。もっとも「抵抗」という中から湧き上がってくる哲学なのだから、鋭利な刃物を突き付けられているような緊張感が常につきまとっているが。……
一方で先述のとおり、本書には巷の哲学入門書の王道たる哲学史が欠けている。この点、哲学アレルギー、大体は哲学=小難しい屁理屈と感じている人にとっても易しい仕様となっている。
なにより、論を立てる上で取り上げられている一つひとつの事象がどれも興味深く面白い。そのため、ときどき著者の「哲学」の定義を思い出さないと本書の趣旨を見失ってしまう可能性があるので注意されたい。
よく理系文系の違いを語る上で「再現可能な知」「再現不可能な知」という言われ方もするが、本書は文系の雄たる「哲学」をフィールドに、まさしく著者一流の他の誰にも語れない「哲学」が披露されている。
個人的に「再現可能な知」は量的に人生をより豊かにしてくれ、また「再現不可能な知」は質的に人生をより豊かにしてくれるものだと考えている。その上で、生きていくためにやはり「哲学」は不可欠なものなのかもしれないと思う。一見無用の長物のようにも感じるが、それこそまさしく人生の振り幅を大きく豊かにしてくる土壌に他ならない。
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