【読書感想】ジョシュア・ハマー『アルカイダから古文書を守った図書館員』

 
 アルカイダから古文書を守った図書館員
 ジョシュア・ハマー 著 , 梶山あゆみ 訳

 出版社:紀伊国屋書店
 発売日:2017/06/15

 文明と暴力。それぞれの正義がせめぎ合う中、過去と未来がつながった軌跡

 西アフリカ・マリ共和国。
 かつて中近世アフリカの一大学術都市として繁栄したトンブクトゥは、現在でも近隣諸国を含めたイスラム文化や歴史の知の集積地としての役割を果たしている。
 本書の中心人物であるアブデル・カデル・ハイダラは、国立の学術研究機関アフマド・ババ研究所に勤務しながらその最前線で活躍した。
 2000年代、アメリカをはじめとした西欧諸国で刮目と驚愕をもって紹介された大量の古文書の収集と保管、それが彼の仕事である。

 かつてヨーロッパの歴史家たちは「アフリカは文化や歴史を持たない」「文盲である」と主張してきたが、本書に登場する古文書はそれと正反対の事実を告げている。
 美しい装飾。多様な文字。更には天文学や数学、詩編や政治、歴史に医学と、ジャンルの幅広さはそのまま文化的重層を表している。
 そしてなにより38万点という量の多さ。
 イスラム文化圏に限らず西洋の学術書の翻訳も含まれているというから、その文化の許容量と寛容さは、他の文化圏に勝るとも劣らない。

 地理的条件から古来より書物が貴重品として扱われ、近年にいたるまで各家の家宝同然に扱われてきたものを、ハイダラは自らの脚で交渉し収集した。その冒険譚はなかなかにスペクタクルだ。
 もちろん最初は家宝を売ることなどできないと、叱責や排除を受けた。しかしその逆境からいかに信用を得、大量の古文書の収集に成功したか? その姿からはハイダラの人物像が如実に伝わってくる。研究員として、また古文書を愛する一人として、彼の仕事ぶりはそのまま周辺のイスラム文化圏の平和と寛容さを表しているようだ。

 その一方、1990年代後半から巻き起こったイスラム原理主義者たちによる過激な暴力行為は、2010年代のいわゆる「アラブの春」による民主化の流れと反動的にアフリカでも拡大をみせた。
 特にアルカイダ系武装組織「イスラム・マグリブ諸国のアルカイダ(AQIM)」による支配は勢いを増し、ついにはトンブクトゥのあるマリ北部も制圧域に入るに至った。
 本書タイトルの物語は、その戦火から38万点におよぶ古文書を救出した大作戦の全貌だ。

 本書は中盤以降、先のAQIM内部の話題やフランスをはじめとした西洋諸国の軍事的作戦や政治交渉の話しが中心として進む。
 そこの解説や描写があまりにも緻密であるがゆえに、古文書救出作戦がいかに奇跡的なものであったかがより強調されている。
 また、イスラム過激派内部や政治家・軍人、果ては現地で生活する一般市民らの織り成す人間模様には、人間のもつ理不尽さや葛藤が垣間見え、それが文化的宗教的背景と相俟って世界情勢にどのように立ち現れたのか、そしてそれが過去の歴史とどのように結び付いているのか、大変興味深く読めた。
 不穏できな臭い行間を経て、過去の人類の叡智が未来へとつながる瞬間を目の当たりにしたとき、激しく心が震えた。

 とにかく大変な「熱量」をもって書かれた大著である。
 そして「歴史とは何か」、この課題を考える上でも本書はこれから更に評価されるであろう。
 なにより、アフリカの歴史と文化のつまった財産の存在、その希少性と価値の重さをより多くの人に知ってもらいたい、そんな気持ちにさせてくれる。。

 最後に、本書の原題は『The Bad-Ass Librarians of Timbuktu』だが、”Bad-Ass”という一語にハイダラとその仲間たちの生き様がアイロニー的に表されており、唸るしかなかった。

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