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【読書感想】平民金子『ごろごろ、神戸。』

 
 ごろごろ、神戸。
 平民金子

 出版社:ぴあ
 発売日:2019/12/10

 市井をみつめる異色の子育て日記

 以前紹介した『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の著者・スズキナオさんは、またの名を"平民金子"さんという。
 以前は『平民新聞』というブログを運営していたが、現在は更新を止めメルカリで日記を売っている。

 その平民金子さんが、自身が住まう兵庫県神戸市の広報課HPで連載していたエッセイをまとめた一冊が本書。
 ベビーカーを押しながら昼飲みしつつ巡る市中。奥様の自由時間確保という名目は、著者をして「自分にも母親をやらせろよ!」という願いをも救済している。
 個人的に神戸といえば、阪神淡路大震災以降の復興の末、近未来的なオシャレな街の代名詞という印象がある。しかしその実、「天下の台所」と謳われた阪神地域の一翼を担う土地柄から、古き良き市井の暮らしの色濃い街であることが本書からは窺える。
 昔ながらの商店、変わらない人情。
 普段何気なく生活する中では決して表出してこない人と人とのぬくもりの大切さを、巧みな文章力の中に垣間見せる文脈は圧巻だ。神戸の街の片隅の、その匂いと音が包み込んでくれているほどといっても過言ではない。
 街を眺める視点と傍らでスヤスヤと寝息を立てる子供に向ける視点は、どことなく儚く、どことなく愛情に満ち満ち、小気味良い。
 ベビーカーを押しながらお酒をかっ食らう姿は、ある意味不良的で、ある意味現代的な世相を思わせる。
 子育てを通してみた、あるいは自身の過去思い出を通してみた神戸の街の姿をノスタルジックに綴る語り口に、世知辛い現代社会の傍らにはいつも、ゆったりとした時間の流れるくつろげる世界があることを私たちに教えてくれる。

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