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【読書感想】スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』

 
 深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと
 スズキナオ

 出版社:スタンド・ブックス
 発売日;2019/11/01

市井に生きる人が市井に暮らす人々と紡ぐ生活史。

 かれこれ10年以上も個人ニュースサイトなんかやっていると、日々巡回するサイトやブログにも愛着というか、それなりに「お、今日もやってるな~」と常連面した居酒屋の客のような感覚を持ってしまう。そしてその中でも、「ここは絶対外せないな」などと思うものも出てきて、多分わたしが最初にそう感じたのが平民新聞さんだったと思う。
 その平民新聞の平民金子さんが"スズキナオ"名義で書いたのが本書。
 デイリーポータルZなどWEB上を中心にこれまで執筆してきた記事が収められている。

 もともと平民新聞では日常の何気ない街角の風景や調理途中の台所の料理など、なんの脈絡もない著者自身の生活の周辺を写した写真をメインに、ときどきその思いをつづった短文が掲載されている(数年前に神戸に引っ越したとのことだが、それ以前、東京住まいのころのものには滞納したであろう家賃を催促する大家さんの張り紙の写真などもあったなw)。
 読み物としての体裁は整えているとはいえ、本書でもその路線は外れていない。
 仲間内でのパーティーや検証実験、旅先での出会いや発見。どの記事も、一貫したテーマのもと、市井に生きる人々の"日常"に自然と寄り添ってしまう著者一流の視点で綴られている。ネットの記事によく見る外連味のある演出や極端な反応などは一切なく、ひとえに、著者自身が遭遇したもの体験したものをそのまま受け取って文章化したような、そんな素朴な言葉が並ぶ。また、それらの出来事一つひとつに対する感想にも、著者独特の感性が光って小気味良いアクセントを添えている。
 なによりうれしいのは、小さいながらも写真素材が豊富なことだ。もちろん文章からその光景や代物を想像するのも楽しいが、「こんな風だった」「こんな感じだった」と視覚的に把握した上で「そこで著者はこんなことを感じたのか~」などと想像しながら読むのもまた楽しいものだ。
 
 「世界はもっと楽しい」
 これはとあるサイトさんのサブタイトルになっている言葉で、わたしも時折使わせてもらっているのだが、本書にはこの言葉が実によく似合うと思う。
 「お金がなく、暇だけはあるような日々をどう楽しもうか」(本書まえがきより)
 世界というのは、自分の日常空間の外に飛び出すことで感じられるものに限らず、何気ない自分の日常の中に新たな日常を見出したり、身近にあっても知らなかった見えなかったものに触れてみたり、物理的な距離感に関係なく、非日常的な何かを発見する中にも十分感じられるものなのかもしれない。
 
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