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【読書感想】モカ/高野真吾『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』

 
 12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと
 モカ / 高野真吾

 出版社:光文社(光文社新書)
 発売日:2019/04/16

生と性。壮絶な半生から未来へと紡がれた哲学書

 2000年代初頭、いまでこそLGBTといった性的マイノリティーの存在は広く周知されているが、当時まだタブー視する向きの強かった頃、果敢にも「女性らしくありたい男の子」というコンセプトに運営されていた個人サイトがあった。名前は「ミンキーハウス」。運営者は本書に登場するモカさん。当時、写真や文章のセンスはもちろん、存在の稀少性も相まって、知る人ぞ知るネットアイドルとして人気を博していた。

 その後2000年代後半からは巷でにわかに女装ブームが巻き起こった。その濫觴、あるいは火付け役となったが、やはりこのモカさんだ。

 「壮絶な人生」と表現することは容易い。
 では「想像しがたい人生」というのはどうだろうか?
 性転換。ネットアイドル。実業家。漫画家。そして12階建てのマンションからの投身自殺、未遂。……
 モカさんの半生はなんとも振り幅が広い。
 本書はそんな人生を新聞記者・高野真吾氏の客観的な視点から紡がれている。その時なにを悩み、なにを考え、なにを感じたか。モカさんとの直接の交流を通じて触れることのできた言葉の数々。
 そのどれもが重く、深く、ときにはあまりに暴力的でいて、それでもなお慈悲深い。……たった一言なのに、そこに付された言葉の意味には幾重にも塗り重ねられた複雑な思いが詰まっている。

 私自身、曲がりなりにも哲学を学んだ端くれとして思っていることなのだが、哲学とはなにも机上において高尚で小難しい事柄を呻吟しながら考えることではないと常々思っている。
 むしろ、炎天下で肉体労働をし、日が暮れれば35度の焼酎をカッ食らって何も考えず眠りにつく、そんな生活の方が余程哲学的であると考えている。
 つまり、「生きる」ということ(西洋哲学的に言えば「"よく"生きる」こと)、この命をもって生きること、それが哲学であると思っている。
 ゆえに自分の人生を自らの力で「生きる」モカさんの言葉は、表層的な文面にとどまらないまさしく哲学そのものだと感じた。それは人生訓や箴言といった浅薄な表現では救いきれないほど、重くひとびとの心に突き刺さる。

 今では同じ思いを抱える他の誰かを救うべく、無償で相談に乗っているという。たったそれだけのことだが、決して誰しもに出来ることではない。
 自殺を図るも一命を取り留め、誰よりも「命」の重さを身をもって知っているからこそだ。
 モカさんの思い描くユートピア、それが実現したのならなんと良いことだろう。
 
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