銀座の老舗バー『ルパン』で呑む

 日本屈指の繁華街、東京・銀座。
 和光の時計台は海外の旅行者からも人気のスポットですが、そこからほど近いところにあるのが老舗バー『ルパン』。

 創業は昭和3(1928)年。開店時には当時近くにあった文藝春秋社の面々からの支援があり、以来文壇バーとして知られています。


 注:本記事にはお酒にまつわる記述がありますが、飲酒を勧めるものではありません。
   また、未成年の飲酒は法律で禁止されています。
   成人であっても節度とマナーを守って過度な飲酒は控えましょう。
   飲酒運転は絶対やめましょう。


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 さて、早速ですが、和光の時計台がある銀座4丁目の交差点から一歩入ったみゆき通りを一路日比谷方面へ。
 

 文藝春秋別館のビル横の路地を入ったところにあります。
 




 
 知る人ぞ知る入口。

 この入り口を入ると
 
 こんな急な階段に出くわす。

 創業当時は地下と地上階と2層の店舗だったとのことですが、戦中戦後の損傷・老朽化に伴い、昭和40年代に店舗のあるビルを改築した際に地下の店舗だけを残す形になったようです。








 さてここで、『ルパン』が文壇関係者以外にも、文学ファンはじめ広く知られるきっかけになった写真をば。




 
 (撮影・林忠彦 『新潮日本文学アルバム』より)

 知っている人は知っているこの写真。
 晩年の太宰治を写したこの写真が撮られたのが、他でもないここ『ルパン』です。
 ちなみに太宰の右側でこの時語らっているのは同じ無頼派の作家・坂口安吾。
 この写真は上記二人に織田作之助を含めた無頼派作家の鼎談の際、たまたま店内に居合わせた写真家・林忠彦氏に太宰が「織田作ばっかりとってないでオレも撮れよ」と絡んだところ、ムッとした林氏に隣の客人が「あれが今売出し中の太宰治だよ」と言われ驚き慌ててトイレの中から撮った一枚だという。そしてまた、その時林氏のカメラのフラッシュバルブは残り一枚だったというから、奇跡的な話しだ。この1年半後、太宰は入水自殺する。


 なにより、この時太宰が座っていた席は今でも健在だ。
 
 (写真左端の席がそうなのだが、ちょっと見切れてるw)
 この席目当てに訪れるファンは後を絶たない。




 さて、そんな伝説を持つバー『ルパン』だが、実は私もお酒が飲めるようになった頃からちょいちょい顔を出している。
 とはいえ貧乏学生だったので、半年に一回とかいうペースだった。

 「銀座のバーなんて、お高いんじゃないの?」という声も聞こえてきそうだが、そこはさすが老舗バー。超ゥリィーズナブルなんです。

 店舗HPのメニュー欄にオススメが掲載されているので見てもらいたいのだが、ごくごく普通というかむしろ安め。
  cf,銀座ルパン HP

 チャージ代もお通し付で何時間いても800円。ちなみにこのお通しも創業当時から変わらないのだとか……。


 して、私がいつも最初に頼むのがこちら、
 
 『ゴールデンフィズ』

 ジンフィズに卵黄が入ったものだが、日本古来よりある玉子酒のような感じで口当たりまろやか。
 その日最初に呑むお酒としては胃にもキツくなく呑みやすい。
 このカクテルは、酒豪で知られた坂口安吾の身体を気遣って提供されたのをきっかけに、『ルパン』を代表するお酒となったとのこと。
 ちなみに写真右が噂のお通し。キュウリを生姜で漬けたものです。卵黄の栄養価と相俟って、とても身体に優しい感じになっています。


 私が『ルパン』を訪れるのは大体開店直後の時間帯なので、比較的店内も空いておりとても静かなのが気に入っているのですが、ゆっくりじっくり呑んでいるとそのうちに太宰筆頭に無頼派ファンの若い子たちや往年の常連客なんかがチラホラ顔を出しはじめます。
 私も最初に訪れた際、(太宰治は大ッ嫌いなんですが)文学青年の儚いミーハー心でドキドキしながら来てみたのですが、何度か顔を出しているうちに店の雰囲気を味わうのと百戦錬磨の常連客たちとの会話を聞きに来るのがもっぱらの楽しみという感じになっています。
 文壇バーとして名を馳せながらも、役者や芸術家、映画関係者たちも集い、また財界・医学界にもファンが多いのがこの店の特徴。
 たまたま隣に居合わせて話し込んだ相手が○○で○○やってた方とか、■■界の重鎮とか、△△とこの××さんとか、ここでは日常茶飯事。

 で、実際のところ、そうした方々とお話しする中で私が感銘するのは、お酒の入った、要は胸襟を開いた時に出るざっくばらんな話しだ。
 そこには大人としての立ち居振る舞いというか、マナーというかセンスというか、そういうものが言葉の端々に滲み出ている。
 今でも場所によっては学生みたいな呑み方をしてしまう幼稚な私だが、大人としての大切な振る舞い方はここで教わったという印象がある。

 余談だが、以前かなり遅い時間に一人で呑んでいた時、大変賑やかなサラリーマン風の男性が数名ドタドタと入ってきたことがあった。
 大分酔いも回っているらしく、声も大きくまた態度も横柄(仕方ないといえば仕方ないが……)。
 しばらくキャーキャーとやっていたところで、『ルパン』の現在のバーテンダーさん(開さんという方。アド○ック天国とかで『ルパン』が紹介される時にシェイカーを振ってたりする。)が物静かな声で一言、
 「お酒には飲み方というものがありますから……」
 と言った瞬間、それまで騒がしかった集団がシュンと静かになったのを目の当たりにしたことがある。
 「そういうものかな……」と思ったものだ。
 ちなみにバーテンダーの開さん自身は気さくな老舗バーの名にふさわしい素敵な紳士です。




 さてさて、ここらで2杯目。 
 

 私はお酒に関してはウィスキーが一番好きなのですが、『ルパン』でも大体2杯目からはウィスキーをチビリちびりやる。
 で、こちらでウィスキーを“シングル・ストレート”で頼むと写真のような小さなショットグラスにナミナミと注いでくれるのだが、このショットグラスは開店当時から使われ続けているという代物。常連客の中にはどうにか持って帰れないものかと思案している人もいるとかいないとか……。
 チビリちびりとやるにはこのくらいのサイズがちょうどいい。なにより、よくよく見るとグラスのところどころでその厚さが不均一で、造られた時代背景を静かに湛えている。それこそ、先の写真家・林忠彦氏の代表作のタイトル通り『カストリの時代』の風景なのかもしれない。

 
 林忠彦 文士の時代





 いつもこうして2杯目以降、ウィスキーをチビリちびり呑みつつ隣の方とお話ししたり、ボーっとしたり、というのが私なりの『ルパン』での呑み方なのだが、最後には〆として必ずこちらを注文する。
 
 スティンガーというカクテル。
 ブランデーベースでペパーミントの香りが特徴的な一杯。
 
 今現在、私はここ『ルパン』でしかスティンガーを呑まない。
 ……私が半年に一回ペースで通い始めた時期、初代主人・高﨑雪子さんの実弟・武さんが週一回程度だったが当時まだカウンターに立たれていた。
 私が初めてお会いしたその日、店内はスタッフも客数も少なく、ほぼ武さんと私ともう一人という状態だった。そこで相変わらずウィスキーをチビリちびりやっていると、
 「お若いのにウィスキーを呑まれるとは大分お強いんですね…」
 と声をかけてくださった。いろいろと話しているうちにすすめられたのが、このスティンガー。
 気取った言い方をすれば、私的に『ルパン』での思い出の味といったところだろうか?
 そんな武さんも平成20(2008)年の開店80周年を目前に他界された。……


 ちなみにこのスティンガー、もちろん世界中いろんなバーや呑み屋で給されているカクテルなのだが、カクテルレシピとしては超初心者レベルという代物なのでごまかしがきかず、バーテンダーの腕が試される一品だったりする。つまり下手なバーテンダーさんだとお察しの通り。一方で上手いバーテンダーさんに当たったりすると、アルコールの度数の高さを感じさせないほど呑みやすい絶品にありつけるのだ(もちろん『ルパン』のスティンガーは絶品レベルです)。
 ……とはいえ名前が名前。カクテルネームの由来は『毒舌家』のようだが、そもそもスティンガーstingerという単語自体に「針」とか「針をもつ生き物」という意味がある。推しての通り、おいしいからとついつい呑み過ぎると腰から砕け落ちます! いや、冗談ではなく……。私は経験ないのですが、撃沈した友人知人を何人目の当たりにしたことか……。




 話しが逸れましたが、そんな感じで二十歳そこそこの頃から半年に一回のペース、北海道に戻って結婚してからはしばらく顔を出せませんでしたが、いろいろあってここ数年、やっぱり半年に一回(時々日帰りor1泊2日とかあるけど)上京するたびに必ず顔を出すようになりました。でも変わらず毎度こんな感じで呑んでいます。
 通い始めて10年以上ですが、半年に一回ペースじゃまだまだ常連の「じょ」の字にもなれず、毎度伺う度にビギナーの心持でカウンターに座り、人生の(おもしろい)諸先輩方から尊い教えを乞うている次第です。

 


 最後に、もしこの記事を「呑み屋なんか行ったことがない!」という方が読んでいたら是非お伝えしたいことなのですが、進学や就職した後、お酒を飲める歳になったらきっと学校や職場での呑み会に誘われることもあるでしょう。そこでバカ騒ぎするのも良いし、先輩たちの正直どうでもいいクダラナイ武勇伝に付き合うのもいいかもしれません。
 ですが、自分だけのお気に入りの“呑みの場”というのを見つけてみるのも良いと思います。そこではきっと、学校の勉強や、友人関係、会社の中とかでは学べない、すごく大切な“大人の時間”があると思います。そういう場所を見つけられたら、また違った意味で人生が豊かになるきっかけになることでしょう。もちろんそこでお酒の飲み方を覚えるのも十分アリです。
 ……一応言っておきますが、これは飲酒をすすめるために書いているのではありません。
 まあ、長い人生、そんな経験もあったら面白いよね、という程度のことです。
 また、いわゆる呑み屋には必ずといっていいほどソフトドリンクもあるので、お酒が飲めないという方でも(ちゃんとした店なら)しっかり対応してくれます。お酒が呑めなくても「呑みの場の雰囲気が好きなんだよ~」という人は意外に多いもの。なにより、一期一会かもしれない出会いが、結構潜んでいたりするんです。
 繰り返しになりますが、未成年の飲酒は法律で禁止されています。成人であっても節度とマナーを守って過度な飲酒は控えましょう。飲酒運転は絶対やめましょう。




 
 酔い覚ましに、こういう夜空を眺めるのも一興というもの。
 今度来られるのはまた半年後かな……。




 ちなみに、お店の方に「初めて来ました」とか「太宰のファンで…」とか伝えたら……
 
 こんな感じの『ルパン』の歴史を記したパンフレットや往年のマッチを頂けたりします。
 私も前々回くらいに伺った際、懐かしくて改めていただきましたw

 銀座『ルパン』

 営業時間:17:00~23:30(ラストオーダー 23:00)
 定休日:日曜日・月曜日(月曜日以外の祝日は営業)

 HP:http://www.lupin.co.jp/
 住所:東京都中央区銀座五丁目5番11号 塚本不動産ビル地階
 最寄駅:東京メトロ 銀座線・丸ノ内線・日比谷線「銀座駅」B6出口



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コメント

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