感想・レビュー

【読書感想】井川直子『ピッツァ職人』

 
 ピッツァ職人
 井川直子
 出版社:ミシマ社
 発売日:2023/05/19

天職を得るということ

 スポーツに打ち込むも挫折し、高校も中退。何物にも成れない自分と葛藤する日々、少年は料理の道に歩みを進めそこで運命のピッツァと出会う。まるで少年ジャンプに掲載される漫画のような世界観だが、これは若さゆえの無謀さとは違う情熱と向上心と矜持の物語だ。
 単身イタリア・ナポリに渡り武者修行に励む日々。もちろん身内も伝手もなにもない中への飛び込みだった。外部から来たことのアウェイ感と現場に馴染むことの重要性の狭間で、少年は何を目にし、何を学び何を手に入れたのか?  そして「本物のナポリピッツァを日本に広めたい」と意気込み帰国した先に待ち構えていた大きな壁。本書はひとりの少年が世界屈指のピッツァ職人となるまでの軌跡をたどった珠玉のノンフィクションだ。
 「(人生をかけて夢中になれるものに)出会ってしまった人たち」を巡る数奇な人生物語は、同時に80年代以降の日本におけるピッツァ受容史ともいえ、著者の綿密な取材の賜物だ。この著者もまたストイックで、本書の執筆に12年という歳月をかけている。それはすなわち手間と時間をかけて人と向き合いつづけたがゆえであるが、そんな努力を微塵も感じさせない文体は地中海のように清々しい。

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