学術

サンスクリットについて……

 デーヴァナーガリー文字やサンスクリット文法について解説をしていますが、そもそものサンスクリットについて詳しい説明(事始め1で軽く触れただけ)をしていないことに今更ながらに気付いたので、今回はそこらへんの話しをば。……
 もともと文法を本格的に解説するつもりではなかったので、そこら辺のことにはすっかり意識が向いていませんでした。

◎サンスクリットとは……

 サンスクリットとはインド・アーリヤ系語族、インド・イラン語派に属する古代語の一つ。インドを中心に中東~東南アジアで用いられてきた。
 原語saṃskṛtaは「完成された言語」の意味を持ち、歴史的にインドに多く存在した民衆語・俗語を総称したプラークリット(Prākṛta)に対する雅語である。
 文学作品をはじめ哲学・宗教・芸術といった膨大な文献を書き表すために広く用いられてきた。また現在でも、ヒンドゥー教をはじめ仏教・シク教・ジャイナ教などの諸宗教で重要な役割を果たしている。
 特に中国や日本の仏教徒においては「梵語」と異称され、これはサンスクリットが古代インドの創造主ブラフマン(Brahman、梵天)により作られたという伝承を受けてものだと考えられている。

・歴史

 一般的にサンスクリットは古代・中期・近代に分けられる。
 広義のサンスクリットは古代インド・アーリヤ語全体を指し、最古部ではバラモン教の根本経典(特に『リグ・ヴェーダ(ṛg-veda)』など)で用いられたヴェーダ語(Vedic)、仏典に使われる仏教混交サンスクリットなどをも含む。
 一方の教義においてはB.C.5~4c頃の文法学者パーニニ(Pāṇini)によって整理・完成されたものを指す(古典サンスクリットまたは単にサンスクリット)。


 パーニニの文法書は一般的に『アシュターディヤーイー(Aṣṭādhyāyī)』と呼ばれ(俗にパーニニ文典)、サンスクリットを3996(一説に3959)個の規則にしたがい体系化させている。この文法体系は後にカーティヤーヤナ(Kātyāyana)の補修を経て、B.C.2cにはパタンジャリ(Patañjali)の注釈書『マハーバーシュヤ(Mahābhāṣya)』によって整理・完成され、今日に至るまで改変を受けることなく伝えられている。
 先述の仏教混交サンスクリットはじめ、叙事詩やジャイナ教で用いられるものの中にはここで規定された文法に厳格ではないものもあり、それらは別途呼称される場合がある。

  ちなみにこのパーニニ文典には和訳があります。
 cf,古典梵語(サンスクリット)大文法―インド・パーニニ文典全訳
  現在は版元が廃業したため新刷されていませんが、発売当時の定価は驚きの48,000円!!

  ※原典のプリント・レプリカ  Kindle版
  
  Aṣṭādhāyīsūtrapāṭhaḥ of Pāṇini (English Edition)

・特徴

 総じてインド・アーリヤ語族に属することから、ヨーロッパ諸言語でもよく見かける名詞の性の区別や格変化、あるいは動詞での人称や数に伴う語尾変化や時制などがサンスクリットにおいてもみられる。この類似性が極めて高いことへの指摘は18cのイギリスの言語学者ウィリアム・ジョーンズによるもので、結果19cに入り比較言語学という学問分野として発展を遂げることとなる。

 サンスクリットの最大の特徴は、文法編の最初でも触れた連声法のほかに、複合語の異常な発達が挙げられる。これは先述の通り厳格な文法規定に基づいていることに伴い、語順の自由度が極めて高いことからもたらされている。他言語では従属節にあたるところを、サンスクリットではこの複合語が用いられる。特に詩をはじめとした韻文では韻律の整合が優先されることからその自由度はさらに高まる。

 また表記に関して、現在、一般的にはデーヴァナーガリー文字が用いられるが、古来よりインド周辺の多様な文字が使用されてきたこと、貝葉や紙・樹皮に文字を記しても風土的に長期間の保存が困難なことから口伝による伝承が強固だったことなどから、その記述に特定の文字を充てるという慣習は希薄だったと考えられる。
 例として日本においてブラーフミ―系の悉曇文字(梵字)が用いられたり、ベンガル圏ではベンガル文字、タミル圏ではグランタ文字が用いられたりする。




 
 ……とサクっとですが解説してみました。

 サンスクリットの詳細な解説に関しては、文法書関連では菅沼晃『新・サンスクリットの基礎〈上〉』の冒頭序論で文字・発音を含めかなりのページ数が割かれているほか、手頃のところでは文庫クセジュ(901)『サンスクリット』があり、文法の概観を含めかなり専門的なことまで解説されています。
 



 とはいえ上記にまとめた程度のことが大体把握できていれば、およそ問題ないかと思います。
 インド哲学・仏教学を学ぶ上では後にチベット語やパーリ語、仏教梵語、あるいはベンガル語・タミル語・ウルドゥー語といったインド諸語が必要になってきますが、その礎はなんといってもサンスクリットなので、文法以外にもその歴史的な背景をおおまかにでも把握しておいて損はないと思います。



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