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【読書感想】清水研『もしも一年後、この世にいないとしたら。』

 
 もしも一年後、この世にいないとしたら。
 清水研
 出版社:文響社
 発売日:2019/10/11

 人は必ず死ぬ。その時までできること。

 ガンに罹患し精神的に追いつめられた患者らへ、自分らしく前向きに生きることを目指す精神治療を行うレジリエンス。本書の著者は、2016年国内初のレジリエンス専門外来をつくった医師である。
 ガンの進行や治療に関わる身体的苦痛の大きさは広く世間的にも知られているが、精神的負担の大きさはそこまで認知されていないだろう。実際、がん患者の自殺率は一般人口のおよそ25倍にもなるという。

 著者は、31歳で一般精神科からがんセンターへと移った。
 その初日から、今まで精神科医として培ってきたものが通用しないという現実を突きつけられた。更に、日々患者たちが抱える深刻な悩みに接し、次第に「なんのために自分は生きているのか」という悩みを背負っていく。長らく接した患者の死もまた複雑な葛藤を沸き起こした。
 そうした日々の診療の中から見出したものは、「今」を生きることの重要性だった。
 「人生は一回限りの旅である。豊かにしないともったいない」
 「"must"な生き方より"want"な生き方を」
 語られる言葉の端々に、臨床経験からくる体験の深さが感じ取れる。

 ある時、一人の患者から「今」に集中して生きていくことが分からないという相談を受けた。
 その際、カウンセリングを重ねる中で見出されたのは「将来のために『今』を生きていた。将来のために『今』を犠牲にしてきた。だから『今』の生き方が分からない」ことだった。
 これが示唆することは、実に真理ではなかろうか?

 死は誰しもにとって無縁ではない。
 死をタブーとして黙殺することなく、むしろ意識し考えることで生きる意味を見出す。
 免れえないものだからこそ、対峙し残された人生へと昇華させる。
 本書を読むと、自分が日々いかに悠長な気持ちで生活していることかと少し恥ずかしい気持ちになる。
 だが同時に、本書は、そうした日々の生活への反省を促す優しい愛の鞭のような温もりも持っている。
 
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 死ぬときに後悔すること25 (新潮文庫)
 

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