狂人たちの世界一周
ピーター・ニコルス 著 / 園部哲 訳
出版社:国書刊行会
発売日:2024/10/18
極限状態にある人間の姿
1968年、前代未聞のヨットレース「ヨット無寄港単独世界一周」が開催された。それに挑んだ9名の船乗りたちは、年齢も経歴も、また参加した理由もさまざまだが、まさしく「狂人」の名に相応しい者たちばかりだ。
そもそも絶海という社会から隔絶された空間でたった一人、しかも高波や暴風雨といった情け容赦ない自然の摂理と対峙しながら、肉体的にも精神的にも極限状態に追いつめられることが明白レース。航海経験が豊富であればあるほど、その過酷さはスタート前から想像できただろう。ましてや現代のようにGPSや電子通信機器が未発達の時代だ。その無謀ともいえる挑戦に、ある者は音楽を、ある者は経験則から導き出された綿密な計画を、またある者は用意周到なイカサマをベースにヨットと共に挑んだ。
ネタバレになるが、最終的にゴールを果たせたものは9名中たった1人だけだった。ある者は棄権し、ある者は失踪し、またある者は自ら命を絶った。そして本書の肝は、このゴールしえなかった8名の「狂人」たちのドラマにある。
そんな本書は海洋ノンフィクションの決定版といって過言ではない。