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【読書感想】岡田敦『エピタフ  幻の島、ユルリの光跡』

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インプレス
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 エピタフ  幻の島、ユルリの光跡
 岡田敦
 出版社:インプレス
 発売日:2023/06/07

静かに消えゆく歴史の1ページ

 北の海に浮かぶ孤島・ユルリ島。北海道根室半島の目と鼻の先にある無人島だが、ここには野生化した馬たちが静かに暮らしている。本書はその島の数奇な歴史と運命を、洗練された数々の写真と共に紐解くルポルタージュだ。
 著者・岡田敦氏は「写真界の芥川賞」と称される木村伊兵衛賞も受賞した気鋭の写真家だ。あしかけ十余年に及ぶ取材は島そのものに限ることなく、かつての島民そして馬をめぐる関係者へと広がる。この楽園とも悲劇の島とも呼べるユルリ島で、どうして馬たちは生きているのか。誠実なまなざしと綿密な取材からは、社会的変化にともなう人間のエゴと馬たちの置かれた過酷な現実が浮き彫りとなってくる。
 静かに消えゆく馬たちの生活。そしてその歴史を知る人々もまた一人ずつ鬼籍につき、島の歴史もまた静かに消え去っていく。その過渡期に見る島の姿には、北の大地の豊穣と過酷さを同時に見るような気がした。その中、島の関係者が口にする言葉の端々に、馬そして島に対する敬意と苦しさが滲み出ていることには感銘と敬服の意を持たざるを得ない。
 

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