僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って
高村友也
同文館出版(DOBOOKS)
2015/12/01
現代版『森の生活』
本書は昨今流行りのミニマリスト的生活を推薦するものではない。またルンペンあるいは厭世的生活を薦めるものでもない。徹底的に著者自身の自我を内省している哲学書である。幼少期から現在に至るまでの著者の苦悩や不安、それら精神的遍歴を回顧しながらどうして現在山林の中で小屋を建て暮らしているのか、内側からの自己探求に終始没頭している。
著者は東京大学および慶応の大学院で哲学を専攻していた。だからその筆致も思考も実に論理的であるのだが、自身の内面の感情的な部分と思考の論理的な部分が表裏一体となっていて、著者一流の複雑だが筋の通った思索大系が展開されている。これが宗教的な側面を帯びているのなら論理を跳躍することも可能だが、あまりにも論理的であろうとするばかりに唯物論的思考へとつながっている。結果、無に帰すことへの恐怖、著者の場合それは「死」への恐怖と必然的に結びつく。
その辺りの思索の痕跡を辿るには本書を読むのが一番なので多くは語らないが、一度でも真剣に内省をしたことのある人にとってはスッと胸に入ってくる内容だろう。自分自身も著者と同様の傾向がある半生だったので、非常に共感できる部分が多々あった。
だが、やはり興味深いのはどうして小屋暮らしを始めたか、そのきっかけに至るエピソードの周辺だろう。世間一般のミニマリストやナチュラリストが綴ったようなものと思って読み始めると面喰らってしまうかもしれない。
発売当初に読んでいた本だったが、最近また版を重ねたようなので再読した一冊。