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【読書感想】川崎賢子編『左川ちか詩集』

 

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岩波書店
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 左川ちか詩集
 川崎賢子 編
 出版社:岩波書店(岩波文庫 緑232-1)
 発売日:2023/09/15

現代詩、その起点

 夭折のモダニズム詩人・左川ちかは、昭和11年(1936)24歳という若さで逝った。北海道で生まれ育ち、女学校卒業後上京し文学活動を開始した。発表される詩や翻訳はたちまち注目を集め、次代を担う新進気鋭の詩人として期待されていた。生前刊行されたのは翻訳本のみで、死後すぐに詩集も出されたが、その後彼女の詩が陽の目を見ることはなかった。2010年に全詩集が再刊されて以降、次第にその名は広まりつつあるが、それでも近現代文学好きの間でさえ未だ名前を知らないという人は多い。
 左川ちかの詩の魅力はなにか? モダニズム文学が興隆する中で紡がれた彼女の詩は、とにかく「私」という個を捨て去ることにあったと思う。その上で、自然と人間に対するイマジネーションの波が次々と入れ替わり、その断片が重層的なコラージュを奏でている。そしてそれを紡ぐ言葉は、天然の鉱石のような透明感溢れる硬質さを要し、どこまでも自然の濃い色に染まっている。色あせない感性の新鮮さと激しい転調を繰り返す感受性が、そこには閉じ込められているような気がする。
 また彼女の詩には、「死」あるいは「衰退」といった内向的下向的メタファーが宿っているが、それを起爆剤として詩を一つの芸術作品にまで昇華しているようにも感じられる。この類まれなる詩才は、いまこの現代日本にあってこそはじめて評価されうる、いや、やっと時代が彼女の詩に追いつける段階に来た、そういっても過言ではないだろう。
 本書には翻訳以外の全詩が収録されている。また生前親交のあった百田宗治や伊藤整らによる跋文・覚書・小伝も併録されている。そんな本書が岩波文庫に納められた意義は極めて大きい。
 最後に、戦後昭和58年(1983)になって限定刊行された森開社版『左川ちか全詩集』(2010年に新版が再刊行されている)。この本が編纂された際のエピソードなど、左川ちか周辺の人々やその姿を追う人々を描くノンフィクションもそのうちに出て欲しいと思う。

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