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【読書感想】谷口弘子『藤原定家の妻』

2023年11月25日

 
 藤原定家の妻
 谷口弘子
 出版社:文藝春秋(文藝春秋企画出版)
 発売日:2022/11/24

 

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稀代の歌人とその妻の生活

 文芸評論家・八橋一郎氏により創刊された同人誌『奇蹟』(1980~2020年)誌上で長年執筆していた作者の作品集。タイトルの「藤原定家の妻」はじめ、室町や江戸を舞台とした時の権力者たちの群像を描く5作品と、劇評・映画評を含む。
 今でこそ同人誌といえばいわゆるオタクの代名詞ともいえる存在だが、その原点は文芸や漫画をはじめとした同好者による同人雑誌である。本書の作品が掲載された『奇蹟』は、「文學界」同人雑誌評などでもたびたび言及されたことのある実力派だ。作者は御年90歳を迎えるが、2020年に通算75号をもって終刊になるまで精力的に執筆をつづけていた。
 タイトルの「藤原定家の妻」は1997年7月(四十六号)と2010年3月(六十四号)に掲載されたもので、いずれも晩年の定家とその周辺の人々の姿を定家の妻の視点から描き出している。正直なところ小説として決して巧いとは言い難いが、同人誌ならではの自由な視点で作品が作り上げられている。私も方々で長らく定家卿とは(脳内)格闘を続けている身なので、こうした切り口にはいくら創作とはいえ興味を惹かれてならない。
 定家卿には先妻・後妻と二人の妻がいたことが知られている。先妻との間には三人の子どもがいるが、日記『明月記』の中で先妻に触れている部分は一か所もない。一方、後妻に関してはたびたび言及がありその仲睦まじい様子が窺える。その差はなにかという話しをすれば本書の紹介から逸脱するので割愛するが、いずれにしても、定家卿の人生の不明瞭な部分を想像で補い昇華させた創作は、商業作品にはない独特の味わいがある。

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