タイタンの妖女
カート・ヴォネガット 著 / 浅倉久志 訳 / 和田誠 イラスト
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)
発売日:2009/02/25
名作古典SFからの現代への警鐘
古典SFの名作にして今なお支持されている本作。読書好きの人なら読んだことはなくともタイトルだけでも聞いたことはあるだろう。方々で岡田斗司夫さんがプッシュしていることもあって、最近でもネット上でたびたび話題にあがるので十数年ぶりで再読した。
本作は典型的な宇宙冒険譚というよりも、どこか文学的・寓話的な要素が強く、ナンセンス・シニカル綯い交ぜの壮大な宇宙活劇といった感がある。それもそのはずで、世界恐慌から第二次大戦までを子ども時代に経験した作者が当時のF・ルーズヴェルトがどのような存在だったかを描きたかった、とのちのインタビューで答えているように、現実をモチーフに社会的背景や歴史観までもSF作品として昇華させているからだ。そしてそこには、大局的な出来事が実は小さく些細な理由から萌芽しはぐくまれている、そんなバタフライ効果のような壮大な背景がある。また登場人物たちの身に起こる出来事一つひとつも、フラクタル的な構造をもって互いに影響し合う。それはどこか、人生そのもののような気がしてくる。
古典的名作ながら、冒頭からの独特な用語の連発に面食らう読者もいるだろう。特にSFに触れてこなかった読者の場合、読みにくさを感じてしまうこと必須だ。またストーリー展開も難解なので、途中で訳が分からなく感じてしまう場合もあるだろう。正直なところ好き嫌い分かれる作品ではある。
だが本作は再読、特に解説なりあとがきを踏まえて読み直せばより面白さも増し、繰り返し読めばより味わいが広がり、さらにその魅力をひとたび理解すれば、この作品の奥深さを十二分に感じることができるだろう。
そういえば、爆笑問題の太田光さんが解説を書いているが、爆笑問題の所属する芸能事務所タイタンの社名は本作からとられたんだよなぁということをふと思い出した。