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【読書感想】石母田正『平家物語 他六篇』

2023年11月16日

 
 
 平家物語 他六篇
 石母田正
 出版社:岩波書店(岩波文庫 青436-3)
 発売日:2022/11/15

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岩波書店
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日本文学史における『平家物語』

 本書はもともと岩波新書で刊行されたものである。昭和32(1957)年の初版から、今では50刷を超える名著だ。本書はそこに関連掌編6篇を加えた新装版である。
 著者は『中世的世界の形成』に代表される一流の歴史学者だが、本書はそんな著者による『平家物語』の文学評論。歴史学者による文学論ということ自体そもそも稀有だが、それが単なる解説本を通り越して平易に書かれた研究書である点、まったくもって他に類をみない。
 もっとも特筆すべき点は、『平家物語』の内容そのものより、「どうしてこう書かれているか」「どうしてこういう表現がなされているか」という部分を深く考察しているところだ。日本文学史における『平家物語』のもつ表現の特異性への指摘は、それまで語られてこなかったあらたな読み解きを問う。そしてそこから中世の人々の精神そのものを読み取ることができる。読後には、どこか儚くも充足した感動を得る。
 個人的に同録されている『愚管抄の面白さ』という一文も面白く読めた。慈円への尊敬を保ちつつ、どこか茶化したような茶目っ気のある文章に頬がほころんだ。

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