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【読書感想】『老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界 』

2023年03月25日

 
 老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界 ~「チャンネル登録」すら知らなかった社員が登録者数20万人に育てるまで~
 有隣堂YouTubeチーム

 出版社:ホーム社
 発売日:202302/24

チームワークがもたらす力の本質とは?

 都内住みの頃、近場にあったこともあって結構好んで利用していたのが有隣堂だった。その店舗は決して大きくはなかったけれど、本の種類が豊富で実に重宝していた。「内地(青森以南)にはこういう本屋もあるんだ~」と、北海道出身の私は随分驚いたのを覚えている。実際には本店のある神奈川を中心に関東圏内にしかないのだが、それを知ったのは動画を見始めてからだったりするけど……。

 閑話休題。

 本書では、有隣堂がYoutubeを始めたきっかけに始まり、どのようにして人気のコンテンツとなりまた背景になにがあったのか、その軌跡が子細に語られている。
 動画投稿が始まったのが2020年。当初はトライアル的な投稿だったようだが、今なお残される当時のものは現在のスタイルとは程遠く、「確かにこれでは・・・」と思わざるを得ない。しかしその後のリニューアルを経て、人気に火が付く過程を見ていくと、ここまで変わるものかと度肝を抜かれてしまう。だがその裏に隠された苦悩や試行錯誤は、これまで表向き語られてこなかった。本書には当時の日記を紐解くかのように、その時々の艱難辛苦がぎっしりつまっている。
 本書が優れているのは、動画の視聴者云々を問わず読者に非常に有益なものをもたらしてくれる点だろう。
 その第一はなんといっても「チームワーク」とはなにか、そこをよく考えさせてくれることにある。企業の内と外で人が動き、一つの作品を作り上げていく。ただでさえチームプレイというのは人間関係はじめさまざまな軋轢が生じやすい。そこで噴出する課題はもちろん、そもそもの制作に関わる諸問題をどう解決し環境を整えてきたか? 具体的な対処と戦略を交えたエピソード一つひとつがとても示唆に富んでいて、他分野はもちろん、日々の生活にも応用が利かせられそうなヒントを多数見出すことができる。
 また自分たちが表現したいものはなにか、それを視聴者にどう届けたいか、その辺りの議論は、老舗書店が培ってきたノウハウや姿勢と共に実践的で学びが多い。
 ある意味、本書は団体戦術を紐解く新手の軍師指南書だともいえる。

 もっとも古参の視聴者的には制作の裏側が垣間見え、ファンならではの楽しみ方ができる垂涎のファンブックの側面もある。レギュラーメンバー含め、普段は店舗内外で勤務する社員の生の声が読めるのもファンとしてはうれしい限りだ。
 私自身はリニューアル間もない頃、チャンネル登録者がまだ1000人台だったあたりから見始めていたこともあって、なんだかその成長を見守る親のような気持ちで読んでしまったことは付け加えておこう。

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