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【読書感想】三浦佑之『風土記博物誌 神、くらし、自然』

 
 風土記博物誌 神、くらし、自然
 三浦佑之

 出版社:岩波書店
 発売日:2022/10/15

 謎解きタイムカプセル

 『風土記』、それは奈良時代、詔により全国60余国の地誌を集め編纂された報告書である。日本史を紐解けば必ず目にする古代の書物。また古代日本を扱う書籍や論文でも必ずといっていいほど参照される文献だ。
 本書はそんな『風土記』に記載されている国別の事柄をただ参照するのではなく、キーワードをもとに俯瞰的視点から各国誌を横断し、比較検討をしようとする意欲作である。

 『風土記』を読んだことがあるという人は、『記紀』をはじめとした他の歴史書に比して少ないだろう。実際、一貫した物語が展開されているわけでもなく、断片的なものも多い。なにより、同じ人物でも国ごとにその伝承や印象にギャップがある。これは『風土記』が未完成の形でまとめられたこと、あるいは天皇を頂点とする律令制下においても現代的な意味での全国統治が不十分であったこと、また記載された伝承が形成された時代の背景など、さまざまな要因が考えられる。
 だがその中で、人びとの生活にまつわるキーワードを結び付ければとても興味深い姿が立ち上ってくる。舟、あるいは樹木、あるいは信仰。断片的な記述からであっても、当時の共通した知識や、政治・社会に対する人々の温度差など、多様な生活の断片が読み取れる。ある意味で、一枚岩では語れない古代日本の多様な社会構造が見て取れるのだ。
 著者曰く「取るに足りないようにみえるこまかな話」に焦点をあて、1300年前の人々の営みを読者の眼前へ展開してくれる。自然や暮らし、市井の賑わい、その豊かな姿。中には災害や伝承・話譚なども含まれており、今まであまり日の目を見てこなかったこの国の歴史が浮き上がってくる。まさしくタイムカプセルをあけるかのように、そこへ想像を巡らせると古代の人々の息遣いまでもが伝わってくるようだ。
 
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 風土記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)

 

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