小さなことにあくせくしなくなる天文学講座 生き方が変わる壮大な宇宙の話
谷口義明
出版社:PHP研究所
発売日:2021/03/20
大きな宇宙と小さなわたし
本書はコロナ禍真っ最中に出版された。「三密」や「ディスタンス」などという言葉がもてはやされたころ、そうした感覚を天文学に置き換えて、宇宙の全体像にまつわる小難しいあれこれを著者一流のユーモアに満ちた文体でやさしくかみ砕いて紹介している。
話しの中心は銀河に関するものだが、我々の住む太陽系のある「天の川銀河」ひとつとってもそのスケールは想像を絶する。お隣の「アンドロメダ銀河」、はたまたそれら近傍の銀河を含めた銀河群や銀河団のこととなると、もはや理屈として理解できてもまったくもって実感を想起できない世界だ。タイトル通り、そんな壮大な世界に思いを馳せれば、日々の煩瑣など実にとるに足らないことのように思えてくる。
また本書内ではたびたび宮沢賢治にまつわるエピソードや作品が紹介されているが、そうしたトピックも現代人の逼迫した心を癒してくれて、コロナ禍で荒んだ読者の気持ちを癒すうえでは効果的な構成だと感じられる。
ただ、宇宙の深淵に触れたいあるいは想像でも良いから正面切ってぶつかってみたいという、そんな本格路線で挑みたい読者にとっては少し物足りない感じがある。もちろん本書の目的が「不要不急ではない宇宙の話し」に終始しているのだからに他ならない。とにかく肩の力を抜いて、初歩の初歩ながら宇宙の壮大さを感じてもらおうというのである。ある意味、とっても「かぶいて」いる天文学入門書だ。くわえて、子どもの頃、星空を見上げることに夢中だった大人たちに、その懐かしい感情を思い出させてくれるそんな本である。だからこそ、本格的な宇宙論や天文学に触れたいという人向きではない。先述の通り、話しの中心は著者の専門とする銀河に関するものなので、天文学といってもその全体をオールマイティに補完しているとも言い難い。
本書はとにかく宇宙のスケールの大きさを感じることに終始する。日常の些細な悩み事なんて本当に馬鹿々々しく思えてくる、そんな宇宙の空間的時間的大きさと奥深さをゆったりと感じる。そこに新たな心の余裕が生まれてくるのだろう。
ちなみに、本書中にはあきらかな誤植・校正ミスが散見される(第1版第1刷時点)。しかも結構重要な部分だったりするので、その辺、少し残念である。
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