【読書感想】原田マハ『本日は、お日柄もよく』

 
 本日は、お日柄もよく
 原田マハ

 出版社:徳間書店(徳間文庫)
 発売日:2013/06/07

「言葉」が持つ偉大な力

 書棚の整理をしていて再読した本。2008年の刊行以来、文庫化・ドラマ化もされているロングセラー小説。最近でも「勇気をもらえて泣ける」本として、各メディアでたびたび取り上げられている。
 あらすじに関しては、「本日は、お日柄もよく – Wikipedia」はじめさまざまなところで紹介されているし、なによりネタバレの恐れもあるので割愛する。
 本作はいわゆる感動系の小説ではあるが、「お涙ちょうだい」を全面に押し出してくることはない。どちらかというとコミカルな書き口で展開していく。だがその書き口の中に、言葉の持つ力強さがこれでもかと思うほどにねじ込まれている。本作が刊行以来ロングセラーとなっている理由はそこにある。時に人を傷つけることもあれば救い慰めることもできる言葉の持つ普遍的な力、そこに内包されたマインド、そしてそれをどう他者に伝えるのか……。話しが進んでいく中で、そのことが少しずつ、しかししっかりと描き出されていく。そしてそのどれもが素直に淡々と語られているから、実に重みのある意味を帯びてくる。なにをどう伝えるのか、その背景になにがあるのか、そして伝えた先でなにが待っているのか。登場人物一人ひとりが語ることの背景が次第に明らかにされていく中で、人と人との大きな輪のような、時間や場所を飛び越えた連関のつながりが浮かび上がってくる。そこを結び付けているものこそ、言葉である。
 計算し尽くされた技巧的なセリフの綾はない。だからこそ読んでいてじんわりと気持ちが温かくなり、ページを繰るうちに自然と涙が浮かんできてしまうのだ。小説すなわちフィクションではあるが、現実世界とフィクションいずれにおいても言葉が持つ力のそれに違いはない。ある意味で、人と人とのつながりがいかに大切であるかを物語ってくれる作品だともいえる。
 作品の中には、2000年代後半の政界や社会的風潮が多く取り入れられている。しかし当時の時勢を知らずとも、本作の語らんとすることは容易に理解できる。
 

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