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【読書感想】細川重男『鎌倉幕府抗争史』

 
 鎌倉幕府抗争史
 細川重男

 出版社:光文社(光文社新書)
 発売日:2022/07/12
 

迷走する初期鎌倉幕府の悲劇

 頼朝薨去後から承久の乱勃発までの23年間、幕府のおかれた鎌倉では御家人同士の抗争が絶えなかった。それは、以仁王の乱から奥州藤原氏滅亡に至るまでの日本の歴史上初となる長期内乱の時代に、武家の棟梁・源頼朝のもとで共に戦った戦友あるいは仲間同士の殺し合いである。
 どんな組織においてもその中心的役割を果たしたカリスマがいなくなると、跡目争いや権力奪取の不穏な騒動は起こりやすい。鎌倉幕府においては「私的暴力集団」である武士により構成された体裁のもと、確固たる体制が整わない時期に中心人物を失った。「殺される前に殺せ」、抗争が抗争を呼ぶ波乱の時代の幕開けである。
 頼朝の死からその妻・北条政子の死までの27年間での抗争およびそれに起因する事件は、流血を見なかったものも含め実に17度に及ぶ。それは、いわゆる「十三人合議制」が敷かれ、頼朝以来の有力御家人らと頼家親政との確執が露顕したことに全ての端を発する。このことは、経験と人望の少ない若き権力者の暴走と、未だ体制が盤石ではない鎌倉幕府の迷走を物語るに必要十分だ。
 その中でも、長らく頼朝の側近として仕えていながら御家人間で忌み嫌われていた梶原景時への不満が爆発した「梶原景時追討事件」はすべての皮切りとなった。
 2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でもこの辺りの流れは克明に描かれていたので、印象に残っている人も多いだろう。番組が進むにつれ、「地獄展開」と呼ばれる陰鬱な事柄が多くなっているが、10月初旬時点、この抗争史の半分に届いたに過ぎない。本書が刊行された7月時点ではその雰囲気すらなかった。
 なにはともあれこれら一連の御家人間の抗争、そして鎌倉幕府の中心には常に北条氏がいた。その北条氏の内部でもさまざまな抗争が繰り広げられ、頼朝の大恩人たる時政を実子の義時・政子姉弟が伊豆へ幽閉したことはあまりにも有名だ。
 その一方で、この短期間での度重なる抗争の嵐に終止符を打ったのが、義時の子・泰時であることは忘れてはならない。伊賀氏の変以降、鎌倉幕府滅亡までの110余年間に起こった抗争は14度。この期間の長短と件数が一体なにを意味するのかは一考に値する。

 さて著者のこれまでの著作を読んだことのある人なら、普段はべらんめい調の実に尖った書き口であることは知っているだろう。しかし本書は実に「淡々と叙述」され筆致は落ち着いている。読む人によっては拍子抜けしてしまうかもしれないが、血を血で洗う激しい内部抗争の叙述と付き合うにはかなり精神的にキツイものがあったのだろうか? ときどき著者一流の毒のある描写は散見されるが、その多くが時政に向けられている。このことも踏まえ、『鎌倉殿の13人』の中後編の傍書としてとても読みやすい本となっている。
 
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