【読書感想】鈴木宣弘『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』

 
 農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機
 鈴木宣弘

 出版社:平凡社(平凡社新書)
 発売日:2021/07/19

日本国民が知るべき日本の現状

 現在、日本の農業界が陥っている危機的状況。これを克明に記し暴露した問題作。
 日本における農業問題は、担い手不足や耕作放棄地などこれまでも様々に語られてきた。昨今はTPPをはじめとした国際的な枠組みの中で、農作物の輸出入など新たな問題も浮上している。
 ではそのなにが問題なのか?
 著者は、日本は農薬・添加物・遺伝子組み換え作物の輸入を「世界一」許容した国だと指摘している。そしてその背景には、「私・公・共」という社会バランスを無視した「3だけ主義」の横行があるとしている。「3だけ主義」、つまり行政や一部の大企業が「いまだけ、カネだけ、自分だけ」を追及する姿勢であり、大手メディアの杜撰な報道と相俟って日本の農業界を蹂躙していると。
 数年前に話題になった種苗法改正などの解説、国内外の詳細なデータなど膨大に掲載・比較検討し、この現状の悲惨さを訴えている。著者は官僚経験もある農業経済学を専攻する学者なだけに、繰るページ繰るページ一言一句にとても重みがある。
 私自身は普段農家をしている。現状の施策や法整備など、農家仲間の集まりがあれば必ず人口に膾炙する。しかしそれでも不透明な部分や今まで知らなかった話題も多い。正直、一介の当事者としても目から鱗の一冊だ。特に日本の農業は「”過保護”ではなく”過放置”だ」という言葉には、今まで我々のなかにモヤモヤと渦巻いていた不満を代弁してくれた金言といえる。
 ひとつ紹介しておきたいのが、著者が考える現状の打開方法だ。それはヨーロッパ市民の例を引き合いに、「すべての決定権は消費者」にあり、生産者と消費者が支え合う構造を強化させることが重要だと説いている。本書を読み通してみると、これはとても理にかない実に現実的な方法だと感じられる。
 ただその一方、この「農業」という言葉を他の業界に当てはめ、関連する言葉に置き換えてみた時、実際はどんな業界にも起きている日本という国の悲惨な現状が浮き彫りになってくる。つまりこれは農業界に留まらない、日本という国が抱えた宿痾のような現実問題だと読み取れる。正直一読して背筋が寒くなった。
 余談だが、巻末付録の「建前→本音の政治・行政用語の変換表」は秀逸だ。
 
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