「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質
加谷珪一
出版社:総合法令出版
発売日:2016/06/22
戦争とお金、その真の関係性
私が思春期だったころ、日本ではオウム真理教の事件があり、海外では9.11テロやアルカイダの台頭など、現在のロシアによるウクライナ侵攻同様、キナ臭い空気感が漂っていた。
その時期、身近にいたとある年配の方が「そろそろ大きな戦争をしたがってる連中がいるんだろうなぁ。ま、昔ほど軍需産業の恩恵はないだろうけど」と言っていたのを覚えている。
当時の自分はまだまだ世間知らずの未熟者で、当然その周辺の知識もなにもなかった。「そんなものかなぁ」と思いつつ、どこかで「戦争」することは「大きなお金が動く」なのだろうかと漠然と考えていただけだった。
本書は人類が生み出した「戦争」というおぞましい手段を、技術やコスト、地政学などさまざまな切り口から紐解こうとする意欲作だ。
ここからは、決して一義的ではない戦争と経済の相互に絡み合った関係性が見えてくる。
特に太平洋戦争中、日本の株価が想像以上に下がらなかった事実など、為替の本質的な部分が垣間見え、戦争と経済がどう相互に影響を与えているのか、その姿を浮き彫りにしてくれる。
また現在のIT技術が地政学的条件を変えるポテンシャルを秘めていることなど、従来の戦争のあり方と比して、現代の戦争を取り巻く状況がいかにテクノロジーの進歩と相関性を持っているのかがよく分かる。
戦争未経験者が大多数を占める今の世の中にあって、経済的閉塞感が戦火の原因となる可能性は排除しきれない。
数字を基軸とした科学的思考によって戦争を食い止める、本書からはそんな気概が感じられてならない。