【読書感想】ハインライン『宇宙の戦士』

 
 宇宙の戦士〔新訳版〕

 ロバート・A・ハインライン 作 / 内田昌之 訳
 出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)
 発売日:2015/10/22

「戦争」することの正しさとは?

 2022年02月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻。日増しにその苛烈さが増す中でふと思い出して再読した本。
 SF界の三大巨匠の一人であるハインラインの手になる本作は、発表当時相当な物議を醸したことは今でも語り草となっている。ミリタリーSFの古典でありヒューゴー賞受賞作、後のSF作品にも多大な影響を与えているのは事実だが、その内容は当時としては実にセンセーショナルであり現在にも精通する答えのない問いに対する一つの回答を与えてくれている。
 
 本書はいわゆるジュブナイル作品だ。
 一人の若者が、精神的あるいは身体的に成長していく過程を描いている。
 パワードスーツを身にまとい、宇宙船から敵陣へ乗り込む機動部隊へ志願した主人公。SFの古典的な設定・導入といっても過言ではない。
 日々訓練に明け暮れる日常は、兵士の実情はまさしくこういうことなのかもしれないという思いをわれわれに想起させてくれる。本作の流れはひたすら訓練と非戦闘時の生活に終始した描写がつづく。

 しかしその中で、教練として受講する道徳の講義中、主人公はある疑問を抱くことになる。それは「戦争とは?」「軍隊とは?」「自由とは?」「権利とは?」「責任とは?」……
 
 本作が発表されたのは1959年。世界第二次大戦後、冷戦構造が固定化される中で朝鮮戦争などの戦時下が依然続く時代。
 そうした時代背景と相俟って、核保有を巡る議論がアメリカ国内における論争が活発化した時代でもあった。
 これは想像だが、当時のアメリカ国民にとって「もう戦争には疲れた」という雰囲気があったのだろう。しかしその機運に反するように発表されたのが本作だった。

 戦争は政治の延長線上である一方、権利と義務は人間社会に必要不可欠なこと。
 「戦争」という人類が生み出したひとつの「手段」。そこに対する様々な思考や解釈を、人と人との出会いの中で描き出している点に本作の凄みがある。

 かつて本作にファシズムという評価を与えた評論家もいたが、そう読めなくもないのは事実。ただ、そこに「守るために闘わなければならない」という問題への解決はない。
 常に賛否両論がつきまとうが、いつの時代にあっても「戦争」という行為に対して一つの視点を与えてくれる作品だ。

 今回紹介するのは新訳・新装版だが、旧訳版の方が訳もこなれていて読みやすいことは付け加えておこう。
 
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 宇宙の戦士 Kindle版(矢野徹 訳)

 

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