「感情の老化」を防ぐ本
和田秀樹
出版社:朝日新聞出版
発売日:2019/03/13
老いに抗うエトセトラ
生まれ落ちた生き物にとって"死"とは避けられない運命だ。
その運命に至るための過程の道程は、成長と衰退という美しい曲線を描いている。
本書ではその"衰退"、つまり「老い」の問題を「感情の老化」を切り口にいかに予防し、そして人生をより若々しく生きていくために必要なノウハウが示されている。
ネタバレになってしまうが、結論「積極的に年甲斐もないことをしよう」という一言に尽きる。
年齢を重ねれば重ねるほど、真新しい情報を取り入れるのではなく、それまで培ってきた"経験"から解決できるようになってしまう。それは一見すると実に合理的で手軽な解決方法に見えるが、同時にそれまで必要としていた思考や言動を使わなくなることでもある。そして使われなくなった部分というのは往々にしてそのまま捨て置かれる。熱力学の第二法則「エントロピーは常に増大する」よろしく、「衰える」ことに他ならない。
成長期真っ盛りの10代を「思春期」と呼ぶのは説明の必要がないだろう。一方で、老いのスタートラインとされる40代から老年に至る60代までの年代を「思秋期」と呼ぶことはどうか? 非常に的を射た言葉だと思う。
身体的な老化はもちろん、精神的な側面、例えば「頭が固くなる」といった表現に代表される「老い」の特徴。本書ではそれらをホルモンバランスの変化として解説されているが、なにより先立つものがタイトルにもなっている「感情」の老化である。
感情のコントロールを司る脳前頭葉の萎縮。感情が衰えることで「やる気」や「好奇心」も衰退し、結果的に行動を起こさなくなる。それは身体的な行動の縮小、つまり身体的老化を促す。身体的な老化が進めば必然的に新しい事物や情報を取得しようという行動も起こすこと自体億劫になる。最早雪だるま式の悪循環だ。
先に挙げた結論だが、老いを予防しいつまでも若々しい姿勢であるために必要な「年甲斐もないこと」をしようという行為は、経験則から緩慢となった心身感覚に適度な刺激を与えることに他ならない。新しい刺激、それを甘受することこそ「老化」防止の最前線の防波堤であることを意味する。
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80歳の壁